確定申告にも必要!飲食店の棚卸の意味をあらためて考えよう

飲食店にかかせない作業である棚卸(たなおろし)。その意味と大切さをあらためて考えてみましょう。本記事では棚卸の基本から、効果的な管理方法までご紹介。特に個人事業主の場合は確定申告にも必要になりますので、このタイミングでおさらいを!

前回の記事はこちら

店舗運営はチーム連携×個人スキル!1WAY 3JOBを意識して効率化しよう

棚卸とは

棚卸とは、仕入品や原材料の在庫を確認することを指します。粗利のコントロールと在庫ロスの軽減にも繋がるとても大切な作業なので、おおざっぱにせずに丁寧に行う必要があります。

例えば、原価が250円のものを100個用意し、1メニューあたり800円で販売するとします。

仕入額と売上を単純に計算すると、以下のようになります。

原価:250円×100個=25,000円
売上:800円×100個=80,000円

原価と売上の差額は55,000円です。つまりこの場合、55,000円が利益となります。

ではもし、40個しか売れなかったらどうでしょうか?この場合、

原価:250円×100個=25,000円
売上:800円×40個=32,000円
在庫:250円×60個=15,000円

となります。
売上から仕入を引くと、-8,000円の赤字となってしまいます。

ここで「仕入れた食材をその月にすべて売り切るとは限らない。前月分の在庫を利用することもあるので上記のような単純な計算を単月で割り出すのは難しいのでは?」と思うかもしれません。くわしくはこのあとに解説しますが、仕入れた食材を売るまでは実際のお金に代わらないからこそ、定期的に棚卸をおこなうことで、本当に利益が出ているかを把握することが重要になります。

在庫高の違いで利益が変わる

飲食店が仕入や売上管理で知っておくべき数字として「原価率」と「仕入率」があります。

仕入率とは「商品の売上に対する仕入の比率」です。こちらは、仕入を売上で割って求めるため、

仕入率=当月の仕入高÷当月の売上高×100

上記のような計算式になります。

一方、原価率とは「売上に対する原価の比率」を言います。原価率を求めるには、以下のような計算式を使います。

原価率=売上原価(期首在庫高+当月仕入高-期末在庫高)÷売上×100

ここで言う「期首棚卸高」とは前期から繰り越した在庫の総額、「期末棚卸高」とは、今期末に残った在庫の総額を指します。期末棚卸高は、そのまま次期の期首棚卸高となります。

図にしてみます。4つを仕入れたりんごのうち、2つ売れて2つ残ったとします。残った2つは来期にくりこされますね。

原価率計算のための期首棚卸高と期末棚卸高の図解

これを期首・期末棚卸高それぞれにあてはめると以下のとおりです。

期首棚卸高と期末棚卸高の解説

棚卸には、仕入率ではなく原価率で考える!

仕入率では、前期の在庫や今期に残った在庫が考えられていません。正確な棚卸を行うためには、原価率で計算を行う必要があります。

なぜ原価率を注視する必要がある?

ここで、下記のような2つのお店を例として計算してみましょう。

A店 B店
仕入高 120万円 120万円
売上高 400万円 400万円
期首在庫高 20万円 20万円
期末在庫高 10万円 30万円

2つのお店は、仕入や売上、期首在庫高は同じで、期末在庫高だけが違います。
これらの仕入率を求めると、A店、B店共に

120万円÷400万円×100=30%

となります。
では、原価率はどうでしょうか?

A店の原価率は、

(120万円+20万円-10万円)÷400万円×100=32.5%

上記のようになります。
一方、B店は、

(120万円+20万円-30万円)÷400万円×100=27.5%

となり、5%も差が出ています。

仕入率は同じでも期末在庫高が異なれば、実際の原価率には大きな差が出ます。

期末在庫高が多いほど原価率も悪化する

高い原価率は経営を圧迫する原因となるため、原価率の把握は飲食店にとって非常に重要ですね。定期的な棚卸で原価率を把握することで、どこを改善するべきかのポイントを見出しやすくなります。

食品ロスの軽減

どの食材をよく使うのか、逆にあまり使わない食材は何なのかなどが把握できるため、次回からの仕入で種類や量の調整が可能です。飲食店の場合は、季節によってメニューを変えたり、違う食材を使ったりすることは珍しくありません。そのため定期的に棚卸を行って在庫を把握し、食材ロスを極力減らすことが重要です。食材ロスを減らすことは、結果的に無駄な経費の削減にも繋がります。

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どう管理すべき?

棚卸の管理は、あらかじめ一覧表を作っておくと楽になります。
一覧表には、

  • 種別(商品や製品、半製品など)
  • 食材の品番や品目
  • 入庫数や出庫数
  • 現在の在庫数
  • 消費期限

などを記載できるようにしておきましょう。

食材や道具の保管場所にルールをもうけ、使用/未使用、種別、賞味期限別など管理しやすい順番で並べておく、仕入れて格納するタイミングで記入するなどこまめに管理すれば、棚卸時の負担を減らせます。

また、調味料やトッピング、ソースの材料などももちろん記入が必要ですが、開封済みの在庫はそれを1つとするのではなく、使った分だけを記載します。たとえばボトルの半分を使ったら、それは「1個」ではなく「0.5個」です。このようなこまかいところをいかに正確に把握するかが棚卸しの重要なポイントです。

翌月つかえないものは在庫ではなくロス!

賞味期限切れなど、翌月に使えないものは在庫には含められません。計算の対象外とし、ロスとして廃棄しましょう。

棚卸に使う計算方法は?

棚卸にはいくつかの種類がありますが、一般的には「最終仕入原価法」を使って計算します。最終仕入原価法とは、最後に仕入を行ったときの原価を在庫商品の単価とする方法のことです。

例えば、期の最初に1,000円で仕入れた商品が、期末に値段が上がって1,500円で仕入れたとします。最終仕入原価法の場合、商品は期末の価格である1,500円を単価として計算します。飲食店で使用する食材は頻繁に価格が上下するため、最終仕入原価法で価格を統一することによって、棚卸の処理が非常に楽になります。

この方法は税法上の法定評価方法ともなっており、税務署でも最終仕入原価法を使って計算します。そのため、最終仕入原価法以外を採用する場合には、届け出が必要です。

期末の在庫は、利益や税金に影響する

飲食店に重要なのが、期末の在庫です。なぜなら期末の在庫は利益や税金に影響してくるためです。

確定申告の勘定科目には「期末商品棚卸高」があります。これは12月末に残った在庫で翌1月に繰り越すもののことです。飲食店の場合は、使いかけでまだ使える食材やドリンクを指します。例えば「12月にりんごを10個仕入れたけれど、5個しか使わなかった。1月に残りの5個を使用する」という場合、残った5個は期末商品棚卸高に計上されます。

期末商品棚卸高に記載された金額は、売上原価から控除され、その年の経費にはなりません。経費が減るということは、その分利益が上がります。そして確定申告では、1月から12月の所得に応じて税金が決まり、所得が高いほど税率が高くなります。つまり、期末商品棚卸高が多ければ、経費が減って利益が多くなり、その分税金も高くなるのです。

そのため、12月末の在庫には特に注意が必要です。無駄な在庫があると、税金の面で不利になってしまいます。定期的に棚卸を行って、無駄な在庫や仕入がないように工夫しましょう。

なお、期末商品棚卸高に含まれるのは、商品のみであり、消耗品は含まれません。調味料や洗剤、割り箸などは消耗品となるため、その年の経費として計上します。

また棚卸表は申告書に添付する必要はありませんが、領収書などと同じように保管の義務があります。保管期間は青色申告で7年、白色申告で5年です。

まとめ

棚卸は原価率や利益を把握できる作業です。日頃からこまめに管理を心がければ、面倒な棚卸の作業も楽になります。税金にも大きくかかわってきますので、普段から在庫の管理をしっかりと行い、無駄のないように心がけましょう。

次回は「飲食店における重要な経営指標、人時売上高(にんじうりあげだか)って何?」をご紹介します。

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