創業60年以上の老舗おにぎり専門店『ぼんご』に学ぶ「愛されるメニューの作り方」

これからの飲食店に必要なノウハウや考え方を、お店のみなさまへインタビューする連載「愛される店のカラクリ」。お店ならではの“個性”が生まれた理由、大切にしている考え方を伺いながら、愛される飲食店の作り方を紐解きます。

第3弾としてご紹介するのは、東京・大塚にあるおにぎり専門店『ぼんご』。56種類にも及ぶ豊富なメニューと、食べ応えのある具材たっぷりなおにぎりで多くの人に親しまれるこのお店に、「愛されるメニューの作り方」についてインタビュー。3回にわたってじっくりお届けします。

地元の人から長く愛されるおにぎり専門店『ぼんご』

日本で生まれ育った人であれば馴染み深いであろう「おにぎり」。その「おにぎり」を求める人で、いつも開店前から行列ができるほど人気のお店があります。

それは、JR山手線大塚駅から徒歩2分の『おにぎり ぼんご(以下、ぼんご)』。創業から60年にわたり、たくさんのお客さんに愛され続けているおにぎり専門店です。

店内の席は、寿司屋を彷彿とさせるL字カウンターのみ。壁一面には、全部で56種類もあるおにぎりのメニューが並ぶほか、トッピングメニューも目をみはるほどの充実ぶり。組み合わせを考えるだけでもワクワクしてくるような、毎日通いたくなるお店です。

ぼんごの大きなおにぎり

『ぼんご』のおにぎりの特徴と言えば、普通のおにぎりの1.5〜2倍はあるこの大きさ。

印の具がたっぷり乗るぼんごのおにぎり

この大きさになった理由は、「給料日前になるとお金がなくて味噌汁を飲めない」と話す若いお客さんたちのために、給料日の前日は味噌汁をおかわり自由にし、おにぎりまで大きくしてあげていたことの名残だそう。サービスでやっていたことが定着した、なんとも温かみを感じるエピソードです。

男性でも満足度抜群なぼんごのおにぎり

具沢山なぼんごのおにぎり

空気をたくさん含み、口の中でほろほろと崩れる『ぼんご』のおにぎり。お米だけでも美味しいのに、大きさに比例して具沢山なのも嬉しいポイントです。

長年、多くの人に愛されてきた『ぼんご』。そのおにぎりを通して、「飲食店における愛されるメニューの作り方」に迫ります。

昭和35年創業の老舗『おにぎり ぼんご』の2代目店主、右近由美子さん

<プロフィール>
右近由美子さん
昭和35年創業の老舗『おにぎり ぼんご』の2代目店主。高校卒業後、新潟の燃料会社に就職するも、上京。創業者である右近 祐(たすく)さんと結婚したことを機に、おにぎり屋の人生が始まる。

ぼんごに学ぶ、愛されるメニューの作り方

Point 1:カウンターで握るスタイルだから、お客さんのニーズに気づく(本記事)
Point 2:お客さんのワガママも、バランスよくメニューに入れる
Point 3:毎日来ても飽きないように、新しい味を探し続ける


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お寿司屋に間違えられるおにぎり屋

——まずは、お店のことを教えてください。由美子さんは、もともとは『ぼんご』の常連客の一人だったと伺いました。

今から45年以上も前になりますけどね。20歳で新潟から上京して東京のお店も全然知らなくて困ってたときに、友達から教えてもらったお店が『ぼんご』でした。お客さんとして2年ぐらい通ったあと、主人(当時の店主・祐さん)と結婚して、いつの間にか手伝わされるようになってました(笑)。

——当時(創業年の1960年)は、おにぎり屋って珍しかったんじゃないですか?

『おにぎり ぼんご』の創業者であり夫でもある右近祐さんと2代目店主由美子さん
創業者であり、夫でもある右近祐さんと由美子さんは、27歳差で結婚しました。写真左上・祐さん、写真左下・由美子さん

専門店は珍しかったですよ。ただ、その頃はどこの居酒屋でも「おにぎりお茶漬け」というメニューが定番で、飲食店でおにぎりを食べること自体は珍しくなかったみたいですね。

——祐さんは『ぼんご』をどういう経緯で始められたんですか?

主人はもともと、お姉さんと一緒にバーをやっていたんです。そのとき、仕事が終わるといつも食べに行くおにぎり屋があったそうで。独立して自分のお店を作ろうとしたとき、おにぎりが老若男女に愛される食べ物なんじゃないかと考えたんです。日本人なら、みんなおにぎりを食べたことがあるはずだからって。

——オーダーを取ってからその場で握るというスタイルは、当時のおにぎり屋ではスタンダードだったんですか?

そんなことはないですね。同じようなスタイルのおにぎり屋は、私が結婚したときでもまだ東京に2〜3軒しかありませんでした。

主人からは「寿司屋みたいにやろうと思った」と聞いています。昔は寿司屋みたいに、板の上におにぎりを乗せての提供もしていましたね。見た目だけなら完全に寿司屋なので、お客さんからも寿司屋と勘違いされることが多かったみたいです(笑)。

——やっぱりルーツは寿司屋なんですね。お寿司にも通ずると思いますが、目の前で握ってもらうと、これから出てくる料理への期待感が自然と上がります。とくにこの距離感だと、従業員の方からもお客さんの反応がよく見られそうだなと。

カウンターに立つぼんご店主の右近由美子さん

そうなんですよ。このカウンターでなければできないことが山ほどあるんです。お客さんの喜ぶ顔とか、「ん? これはちょっとダメだな」って表情の曇りとか、そういうものがダイレクトに見える。それくらい、常にお客さんの方を向いていますしね。

——お客さんとコミュニケーションをとる前提の店のつくりなんですね。

そうですよ! 逆にお客さんからも見られてますけどね。お客さんの指摘をきっかけに、サービスを変えたこともありますし。

——へえ、なにを変えたんですか?

うちのおにぎりって、おにぎりの上に、さらに具が乗っかってますよね。あれは、持ち帰り用に具の中身がわかるようにつけていた目印で、店内用では乗せていなかったんです。だって、店内で食べるお客さんは、自分が頼んだものを覚えてるはずだから。

ぼんごの辛子明太子おにぎりとらんおうおにぎり
左から、辛子明太子(260円)、らんおう(310円)。

ただ、あるときに女性のお客さんが、お持ち帰り用のおにぎりにだけ印がつけられているのを見て、「私も印ほしい!」って言うんです。なぜ必要なのか聞いてみたら、「納豆は一番最後に食べよう」とか食べる順番があるんですって。思わず「なるほど」と思ってしまって、店内用でも印をつけるようになったんです。

——印にしては結構、量が多くないですか?(笑)

あっはっは(笑)。いっぱい乗せるとお客さんが喜ぶから、だんだんエスカレートしていきました。

こっち目線だけだとわからないことが、お客さんと会話をすることでわかったりする。こういうコミュニケーションは、カウンター越しにおにぎりを握るこのスタイルじゃないとできませんね。

カウンターで握るスタイルだから、お客さんのニーズに気づく

中編につづきます

お客さんのワガママも、バランスよくメニューに入れる by ぼんご 中編

写真:土田 凌 編集:Huuuu

早川大輝

written by

早川大輝

フリーランスの編集者・ライター。インタビューやエッセイの編集、執筆をしています。日常的にメモを残すのが癖で、エンタメや食べ物に関することを淡々と記録することが好きです。