お店の世界観を言語化し、守ってゆく by fuzkue 中編

これからの飲食店に必要なノウハウや考え方を、お店のみなさまへインタビューする連載「愛される店のカラクリ」。お店ならではの”個性”が生まれた理由、大切にしている考え方を伺いながら、愛される飲食店の作り方を紐解きます。

連載第2弾としてご紹介させていただくのは、本の読める店として2014年10月に初台にてオープンした『fuzkue(フヅクエ)』。

すべての「気持ちよく読書がしたい人」を幸せにするためのどこにもない料金設計やアイデアには目が離せません。

店主の阿久津隆さんにお伺いしたお店づくり実現のための考え方を、3回にわたりお届けします。

fuzkueのカラクリ

Point 1:
お店が「幸せにしたい人」は誰か考え、料金設計をつくる

Point 2:
ルールを言語化して、お客さんに「歓迎」の意思を伝える(本記事)

Point 3:
新しい客層との出会いは、お店を変革できるチャンスである

『本の読める店 fuzkue』店主 阿久津さんのプロフィール写真

<プロフィール>
阿久津隆さん
『本の読める店 fuzkue』店主。岡山県でのカフェ開業を経て、お客様へ最高の読書環境を提供するお店として、2014年に「fuzkue」を開店。2020年には、下北沢の施設『BONUS TRACK』内に2店舗目を開業し、読書家たちを幸せにする店づくりに取り組んでいる。

「ゆっくり本を読みたい人」の満足を最大化するためのルールづくり

──fuzkueに訪れて一番驚いたのが、この案内書きです。お店のルールや支払いの仕組みが事細かに記されていますよね。

『本の読める店 fuzkue』のルールや支払いの仕組みが事細かに記された案内書き

──食事や喫茶のメニューはもちろん、禁止事項や、それを禁止する理由、料金設計の考え方に至るまで。50ページ以上のメニューから、すごく丁寧にお客さんと向き合おうとする気持ちが伝わってきました。

はい。お店のすべてを言語化することで、一見さんも常連さんも、この店について同じくらいのことを知っている状態まで引き上げたかったんです。

──同じくらいのことを知っている状態?

初めて訪れたときに戸惑ってしまう小さなルールって、お店の中だと色々あると思うんです。

何か疑問に思ったとき、店員さんに気軽に聞ければ大きな問題にはならないかもしれませんが、みんながみんなそうではないですよね。

たとえば「本当は座りたいと思っていた席が空いたから移動したいけれど、大丈夫かな?」と悩みながら過ごしてしまった経験、ないですか?

──あります...!確かに、常連であれば自然とわかるルールも、初めて訪れる場所だと何もわからず戸惑ってしまうことがあります。

『本の読める店 fuzkue』案内書きの詳細説明
ほかにも、ルールが導入された背景や、店内で快適に過ごせるような工夫などが丁寧に書かれている

かといって、こちらも口頭ですべてをお伝えするのは難しいので、気になることがあれば確認して、安心して過ごしてもらえるよう、この案内書きを作ったんです。

──とは言っても、ここまでのものを作り上げるのは大変だったのではないですか。一つひとつのルールはどうやって設定していったのでしょう?

読書の際、邪魔にならないよう日本語の音楽は流さない工夫も。こちらはfuzkueオリジナルのCD
『本の読める店 fuzkue』オリジナルのCD

fuzkueには「ゆっくり本を読みたいと思った人の満足を最大化する」という軸があって、それを邪魔する可能性があるものに気づいたら逐一取り除くようにしています。

当初は「1人の時間を過ごす人のためにfuzkueが存在できたら」という想いが強くありました。そこには読書だけでなく勉強や仕事も含まれると思って開放していたのですが、「読書の時間」と「勉強や仕事の時間」を共存させるのは難しいと気づいて。

「PCのタイピングは優しくお願いします」としていたルールも、どうやってもガチャガチャしたタイピングをする人は現れてしまいます。その都度お声がけはしていましたが、読書をする方にとってはやっぱりリスクになってしまうな、というところで「PCは使用禁止」にするといった風に少しずつ改定していきました。

──「幸せにしたい人」がはっきり見えているからこそ、改善点が見つかるんですね。ゆっくり本を読む時間を「邪魔する可能性があるもの」については、お店に立っていて気づいたのでしょうか?

『本の読める店 fuzkue』店内の様子

気づくのはもちろんですが、特に最初の時期は、「さっきの音の響き方って、隣で本を読んでいた人にとってはどうだったのだろう?」と気になったときは、お見送りの際に「ちょっと聞かせていただいてもいいですか」と言って外に出てヒアリングさせてもらったりして、快適な空間をつくっていく作業を続けています。

──確かに、ゆっくり過ごしたいと思って来たお店で、居心地の悪さを感じたら悲しい気持ちになってしまいます。 『本の読める店 fuzkue』店主の阿久津隆さん

どこに行っても「あれ、場違いかな?」と感じて気持ちが良い人はいないですよね。

お店に訪れたとき「歓迎されている」と思えるかどうかって、接客とか雰囲気とか、かなり曖昧な要素に頼っていると感じていて。

「1人で本を読む」ってあまりパワフルな行為ではなくて、むしろ壊れやすい体験だと思います。「周囲の会話が聞こえてきて、落ち着かない」「店員さんの接客が冷たく感じる」など、些細なことでも、本の世界への没頭が挫かれやすいですよね。

だからこそfuzkueは、本を読みたくてやってきてくれた人に対し「ちゃんと歓迎されている」と実感し続けられる空間でありたいと思っています。この案内書きもすべて「気持ちよく読書をしたいあなたを歓迎しています」というメッセージを込めているんですよ。

fuzkueのつくりかた2:ルールを言語化して、お客さんに「歓迎」の意思を伝える

──fuzkueのやり方は、お店の守りたい世界観や「幸せにしたい人」がしっかり見えているからこそできることですよね。他のお店が応用するとしたら、「○○はご遠慮ください」だけじゃなく、「周りのお客様が気にされるかもしれないから」とお客さんに周知するのは、今すぐにでも実行できそうです。

そうですね。お客さんとお店の間にあるブラックボックスみたいなものがお互いの不安の元凶だと思うので、全部クリアにできたらいいですよね。

後編に続きます(最終回)

新しい客層との出会いは、お店を変革できるチャンスである

挑戦をやめない by fuzkue 後編

写真:辻 茂樹 編集:Huuuu

本の読める店 fuzkue

〒151-0061 東京都渋谷区初台1-38-10 二名ビル2F

12:00〜24:00(だいたい無休)

03-1234-5689

※営業時間が変更となる場合があります。最新の営業時間についてはお店HPをご確認ください

高橋まりな(ふつかよいのタカハッピー)

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高橋まりな(ふつかよいのタカハッピー)

三度の飯より酒が好きなフリーライター。合言葉は「約束はいらない、酒場で会おう」。