"ゴーストレストラン"から学ぶ、新しい飲食店経営の形 by DELICIOUS FACTORY 下北沢 前編

店を続けていくために、必ず考えることになる「お金」の問題。融資や補助金の活用から、日々発生する支出に至るまで、飲食店はそれぞれに悩みながらお金に向き合っているはず。当連載では、そんな「お金との向き合い方」について、様々な飲食店関係者にインタビューしていきます。

第三弾となる今回は、デリバリーを専門とする飲食店経営の形「ゴーストレストラン」に着目し、飲食店向けのシェアキッチン施設『DELICIOUS FACTORY 下北沢』に取材。全3回に渡って、「ゴーストレストランから考える、新しい飲食経営の形」についての考えを伝えていきます。

"ゴーストレストラン"の持つ可能性を考える

好きな場所からスマホで手軽に料理を注文できる『Uber eats』をはじめとしたフードデリバリーサービスは、ここ数年で一気に世の中へ広まっていきました。それと同時に注目を集めはじめた飲食店のあり方が、「ゴーストレストラン」。

ゴーストレストランとは、「店内飲食が可能な実店舗を持たず、デリバリーのみで営業を行う」という新しい飲食店のスタイルのこと。その業態は数年前に海外で注目を集め、日本でもコロナによる食生活の変化を受け、2020年から爆発的にその認知と事業者数を広げました。

開業資金が抑えられる、人件費がかからないなど、運営面での様々なメリットが聞こえてくる「ゴーストレストラン」ですが、その実態はどのようなものなのでしょうか?

ゴーストレストラン前編1

今回は、そうした「ゴーストレストラン」の特徴について知るべく、シェアキッチン施設の運営を行う『DELICIOUS FACTORY 下北沢』に取材。代表の久保田太さまにお話を伺うことで、飲食現場から考えるリアルな「ゴーストレストランの強みと注意点」をお伝えしていきます。

DELICIOUS FACTORYと考える、 "ゴーストレストラン"のお金との向き合い方

Point 1:開業資金を抑えて、「小さなスタートアップ」が可能に(本記事)
Point 2:1店舗分の設備投資で、「他業態展開」を実現する
Point 3:最大の強みは、『トライアンドエラーがしやすい』こと


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「小さなスタートアップ」が可能になる "ゴーストレストラン"とは?

——久保田さん、本日はよろしくお願いします!

よろしくお願い致します。

久保田さん

<プロフィール>
久保田太さん
株式会社フードテラス 代表取締役。飲食店専門の求人広告媒体『グルメキャリー』で9年間働いたのち、2019年に独立開業。クラウド型のキッチン施設『DELICIOUS FACTORY 下北沢』を運営し、ゴーストレストランの開業を目指す飲食店を支援している。

——まずは、「ゴーストレストラン」の定義についてお伺いできますか?

ゴーストレストランとは、店内に飲食スペースを持たず、デリバリーを専門とする飲食店のことです。

実店舗を持たなくてもフードデリバリーサービスを通して営業ができるため、実体のない”ゴースト”レストランと言われています。

——ゴーストレストランのメリットは何があるのでしょう?

一番わかりやすいメリットは、開業資金が少なくて済むことです。

一般的に、スケルトンの物件を借りて、飲食店として開業させようとすれば、賃料、内装外装費、設備投資、もろもろ含めて1000万円近くの費用がかかると言われています。

ただ、ゴーストレストランの場合は店内飲食スペースが必要ないため、物件は狭くていい。さらに、店内で接客を行うホールの人員が必要ないため、人件費も調理スタッフのみで済みます。

開業資金が少なくて済む、というのは一般的な飲食店と比べた時の大きな違いだと言えるでしょう。

積み上げグラフ
——『DELICIOUS FACTORY 下北沢』には、経営母体の違ういくつかのゴーストレストランが入居されているんですよね?まずはその仕組みについて、教えていただけますか。

はい。ここは「ゴーストレストランを始めたい飲食店向けの、シェアキッチン施設」という位置付けです。

施設のなかには厨房設備を整えた6つのキッチンスペースがあり、初期登録料の50万円と、月額の賃料(30万円〜)を支払っていただくことで飲食店の方々が「ゴーストレストラン」をはじめられるという仕組みですね。

ゴーストレストラン外観

——飲食店の方々にとって、気軽に開業できる仕組みを提供されているんですね。なぜこの事業をはじめることに?

実は、自分もかつて「将来は自分の飲食店を経営したい」と考えて、レストランで働いていたんです。

ただ、飲食業界全体の問題として「飲食店で働きながら、将来の出店資金を貯蓄する」ということはなかなか難しい。

若い飲食スタッフの給料は、業界的にもそこまで高いとは言えないので。

——ご自身も、「飲食店開業の高いハードル」を感じられていたと。

自分の場合は開業資金を貯めるために転職をして、飲食店専門の求人広告会社で働いていて。そこで関わるお客様からも、やはり「開業の大変さ」は聞いていました。

それなら、飲食店の開業サポートをしながら「飲食店を経営する」という自分の夢も叶える方法を探そうと思って、この「ゴーストレストラン向けのシェア施設」という事業を立ち上げることにしたんです。

キッチン

施設内には6つの独立したキッチンスペースを設け、営業に必要な厨房機器(ガスレンジ、オーブン、2曹シンク、冷凍冷蔵庫、コールドテーブルetc.)をあらかじめ完備しています。

飲食店の経営者の方々にとっては、物件探しに時間を割く必要がない上に、営業に必要な最低限の厨房機器は既に揃えてあるため、初期投資もかなり抑えることができます。

結果として、初めての独立開業を目指す料理人の方や、ゴーストレストランの展開を検討中の飲食店の方にとってとても手軽にチャレンジできるサービスになったと思っています。

——より多くの飲食店経営者に、気軽に"ゴーストレストラン"という選択肢をとってもらうための取り組みだったんですね。ここに出店してノウハウを蓄えたあと、自分たちでイチからゴーストレストランを立ち上げる…ということもできそうです。

向き合い方1

ただ、一概に「開業資金が低く抑えられるから、ゴーストレストランを始めるのがオススメです」とは言えません。

ゴーストレストランという営業形態だからこそできることもあれば、気を付けなければならない注意点だって当然あります。

——ゴーストレストランの強みと、注意点ですか。

そうしたお話については、実際に『DELICIOUS FACTORY 下北沢』に入居されているゴーストレストランの方々にも意見を聞いてみましょう。

中編に続きます

1店舗分の設備投資で、「他業態展開」を実現する by DELICIOUS FACTORY 下北沢 中編

写真:藤原 慶 編集:Huuuu

いぬいはやと

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いぬいはやと

1993年生まれの編集者・ライター。ローカルを軸にした編集チーム『Huuuu』に所属し、外食、1次産業、移住などを中心に取材。趣味で酒場のメニューを収集しています。