1店舗分の設備投資で「他業態展開」を実現する by DELICIOUS FACTORY 下北沢 中編

店を続けていくために、必ず考えることになる「お金」の問題。融資や補助金の活用から、日々発生する支出に至るまで、飲食店はそれぞれに悩みながらお金に向き合っているはず。当連載では、そんな「お金との向き合い方」について、様々な飲食店関係者にインタビューしていきます。

第三弾となる今回は、デリバリーを専門とする飲食店経営の形「ゴーストレストラン」に着目し、飲食店向けのシェアキッチン施設『DELICIOUS FACTORY 下北沢』に取材。全3回に渡って、「ゴーストレストランから考える、新しい飲食経営の形」についての考えを伝えていきます。

DELICIOUS FACTORYと考える、 " ゴーストレストラン"のお金との向き合い方

Point 1:開業資金を抑えて、「小さなスタートアップ」が可能に
Point 2:1店舗分の設備投資で、「他業態展開」を実現する(本記事)
Point 3:最大の強みは、『トライアンドエラーがしやすい』こと


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他業態展開と新規チャレンジが、 "ゴーストレストラン"の一番のメリット

施設内に5店舗(2021年5月取材時)のゴーストレストランが入居している『DELICIOUS FACTORY 下北沢』。実際に入居し、ゴーストレストランを営業されている方にお話を聞きます。

ご協力いただいたのは、グリルチキンなど多国籍なライスボウルメニューを販売している『Delitake(デリタケ)』。恵比寿で80年以上続く割烹『魚竹』の新たなチャレンジとして開店したこちらのお店について、同店料理人の川崎さんにお話を聞きつつ、久保田さんからもコメントをいただきました。

Delitake_メニュー

——よろしくお願いします。実際にゴーストレストランを運営してみて感じたメリットや注意点について、お伺いさせてください。

よろしくお願いします。

——『魚竹』さんは、割烹料理店として80年以上も愛されてきたお店ですよね。なぜ新規ブランド『Delitake』としてゴーストレストランを開業することになったのでしょう?

このコロナ禍の状況で店外飲食への需要も高まってきたことから、テイクアウトやデリバリーを強化した新しい『魚竹』を作り、育てられたらと考えたのがきっかけですね。

そこで、『魚竹』でこの3年ほど力を入れてきたランチを中心にしつつ、店外飲食に特化した新ブランドとして『Delitake』を立ち上げることになりました。

Deritake

——老舗割烹『魚竹』のイメージとは違う、新しいブランドづくりに挑戦されたのですね。新店舗を構えるのではなく、ゴーストレストランを選んだ理由はどこにあったのでしょうか?

やはり、新しい事業を始めようと考えた時に、最も少ないリスクで挑戦できるのが「ゴーストレストラン」だという判断でした。

新しく実店舗を作って、そこにデリバリーとテイクアウトに対応できる体制もプラスで整備して…というやり方をするよりも、ゴーストレストランとして開業する方がはるかに初期費用や人件費が抑えられるので。

立地や店舗面積の広さにもよりますが、店内飲食のある実店舗だと内外装費だけでも数百万円規模にはなるはずですからね。

——メニューを拝見すると、グリルチキンや多国籍のライスボウルなど、和食の割烹である『魚竹』とは全くイメージの異なるメニューになっていますね。

開業した目的は『魚竹』をデリバリーすることではなく、『Delitake』という新しいデリバリーブランドを育て、知ってもらうことだったので、新店舗として一からメニューを作っていく必要がありました。

下北沢という場所でやることを考えたときに、和食がベストな選択肢ではないと思いました。『魚竹』ではチャレンジしたことのない新しいことをやってみたかった、という気持ちもありましたし、何より下北沢エリアで生活する若い方々にも愛される食事という観点から考えて、現在のメニューを考案した形です。

新規メニューと新業態を開発する、いわば実験的な取り組みとしてゴーストレストランができればと思っていて。
テイクアウトでは多国籍ライスボウルが中心ですが、フードデリバリーのサービス上では、ケバブなど他の業態の運営も行なっているんですよ。

Deritake

こんな風に「1つのお店で、いろんな料理店の業態を運営する」ことができるのも、ゴーストレストランならではのメリットです。新しい店を1軒作る費用を使わなくても、新しい業態にチャレンジできる。

1店舗分の設備投資で「他業態が展開できる」というのは、まさにゴーストレストランの大きなメリットの1つだと思います。

ハンバーガー専門店の内装のまま、ラーメン屋さんをやろうとしても違和感があるでしょう?内装やカトラリー、オペレーションを変えないといけないですから。

その点、ゴーストレストランであれば、オペレーションとデリバリー容器の変更、フードデリバリーサービスの情報を追記して、メニュー写真を差し替えるくらいの作業で他業態への転換が済みます。

圧倒的に低いコストで、多業態展開にチャレンジできるんです。

1店舗分の設備投資で、「他業態展開」を実現する

——ゴーストレストランにおける注意点はあるのでしょうか?

それは、安くはないデリバリーの手数料が必ずかかってしまうことだと思います。

だいたい、大手フードデリバリーサービスの手数料は35〜38パーセントです。月に100万円の売上がでても、38万円はデリバリーの手数料として引かれることになります。

ゴーストレストラン売上の内訳

——デリバリーサービスを利用する以上、このデメリットはゴーストレストランでも実店舗でも避けられなさそうですね。

そういう意味でも、ゴーストレストランの1店舗だけで大きな利益を上げるというより、「実験」「挑戦」という意識が強いかもしれません。

もちろん、コストを抑えようと思えば原材料費だったり、テイクアウト容器だったりを安く抑えることはいくらでもできます。

ただ、利益ばかり追求しているといいものができないので、デリバリーという業態で何が世の中に受け入れられるのか?ということを研究し、実践するための場所としてゴーストレストランを運営していけたらと思っています。

——ゴーストレストランを運営するためには、しっかりとした目的が必要なんですね。『Delitake』さんの場合、ゴーストレストランを通して目指していることはなんですか?

大きくは2つあります。

まず1つは、テイクアウト専用のメニュー作りのノウハウを蓄積することです。『魚竹』でもランチとお弁当を販売していますので、活かせたらと。

もう1つは、新業態としての『Delitake』ブランドを多くの人に知っていただくことですね。メニューはまだまだ開発を続けながらですが、『魚竹』の新しい側面として、多くの人に親しまれるブランドになればと思っています。

後編に続きます

最大の強みは、『トライアンドエラーがしやすい』こと by DELICIOUS FACTORY 下北沢 後編

写真:藤原 慶 編集:Huuuu

いぬいはやと

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いぬいはやと

1993年生まれの編集者・ライター。ローカルを軸にした編集チーム『Huuuu』に所属し、外食、1次産業、移住などを中心に取材。趣味で酒場のメニューを収集しています。