これからの飲食店に必要なノウハウや考え方を、お店のみなさまへインタビュー連載「愛される店のカラクリ」。 お店ならではの”個性”が生まれた理由、大切にしている考え方を伺いながら、愛される飲食店の作り方をひもときます。
連載第1弾としてご紹介させていただくのは、2020年8月に恵比寿にてオープンした『JANAI COFFEE』。
一見すると何の変哲もないコーヒースタンドですが、ここは秘密の空間への入り口でしかありません。実はJANAI COFFEEは、コーヒー屋のふりをした「バー」。ある秘密を知っている人だけがこの先の空間へ進むことができます。
そんな不思議なお店づくりを実現した3つの考え方を、4回にわたりお送りします。
人に話したくなる体験を生む、JANAI COFFEEの作り方
Prologue:JANAI COFFEEが作り出す「ここに来ないと体験できない」価値
Point 1:スマホ1つで完結させるギミック(本記事)
Point 2:お客さまを巻き込む共犯意識
Point 3:全スタッフがプランナー
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"引け目を感じてしまう体験"を削ぎ落して、誰でもカジュアルに楽しめる空間に
──最初は、秘密の隠れ家的バーという印象で少し構えていたのですが、いわゆるバーに慣れていない人でも楽しめるようなメニューのラインナップでホッとしました。
大槻
今って20代の人がバーにあまり行かなくなっているので、そういう人たちでもカジュアルに楽しめるバーにしたいなって想いはありました。
実際のところ、バーで「ウイスキー何にしますか?」なんて聞かれても、山崎がいいのか白州が良いのかとか、お酒に詳しくないと良く分からないじゃないですか。"引け目を感じてしまう体験"を削ぎ落していく意識はありましたね。
大槻
僕はお酒が好きですしバーも好きなので、自分が求める味のお酒をバーテンダーがその場でささっと作ってくれる体験も面白いし、間違いなくバーの価値だと思っています。でも、素人の僕らではその土俵で戦えないので、誰でもカジュアルに楽しめる空間を目指したんです。
──バー文化へのリスペクトがあるからこそ、違った形の『体験』へと戦い方をずらしたということですね。
謎解きの体験を守るためにも、口コミによる拡散を待つしかなかった
──このギミック、気持ちいいですね。ここが体験のコアになるのかなと思うのですが、どうしてこのギミックになったんですか?
大槻
そこは結構議論しました。初めは「カフェのメニューに一つだけ混じってるお酒を注文する」とか「合言葉を言う」案がありましたね。
吉田
アメリカだと「忘れ物をしたので中に入れてください」や「倉庫の掃除をさせてくれ」といった合言葉で入れるところもあったのですが、それだと日本人は恥ずかしがるのかなと。
──どれも洒落てますけど、確かに実際にやるとなると照れてしまう気がします。
大槻
もっと深堀りすると、オンラインを選んでスマホだけで完結できる形にしたことも、成功のカギだったと思います。
吉田
これなら店頭で特別なアクションをとらなくても、スマホを見せるだけで入店できます。それにスマホで完結すれば、お店まで足を運ばなくても『JANAI COFFEE』のことを知ったその場で、友達と一緒に謎解きを試すこともできるじゃないですか。
──謎が解けたら、お店に行きたいってなりますし、すごい仕組みですね!
──でもこれって、口コミによってしか広げられない仕組みですよね。どうやって認知を獲得していく戦略だったんですか?
大槻
それが難しいところで、普通ならオープン1か月前に告知してプレスリリースを出すと思うんですけど、JANAI COFFEEはコンセプト的にプレスリリースが出せないお店なんですよ。
──あっ!! 「本当はバーです」なんて言ったら秘密の体験にならないですもんね。
大槻
そうなんです(笑)。全部バラシて「コーヒー屋に見えるバーです」なんて宣伝するのは一番ダサいじゃないですか。
だから知っているメディアにアプローチしたり、一週間、スタッフの友達だけを呼ぶ期間を設けて、そこから口コミを広げてもらったり、メンバーのSNSによる告知で拡散を期待するといった方法しか取れませんでした。
──口コミから話題にされるためにそんな影の努力が……。
大槻
「夜間だけ営業しているコーヒー屋」みたいに、コーヒー屋としての引きを作り、「実は調べてみたら……」という展開も考えたんですけど、それだと情報が乗っかりすぎて企画が分かりづらくなるという話になりました。
──企画を立たせるためにそれ以外の要素を分かりやすく構成したんですね。
大槻
人に言いたくなるものを考えるとき、「言いやすさ」という側面もあると思っていて。企画が分かりやすいものやオンラインで完結するものって、人に言いやすいので。そこは設計段階から意識的に作っている部分でもあるんです。
もちろん、店内も口コミでの話題の広がりやすさを考慮して、写真に撮られる部分に関してはこだわりました。店内のネオンであったり、グラスも無駄に高いものを買っていたりして、写真に撮って人に共有したくなるものを意識しています。
大槻
それでも、最初の5ヶ月くらいはお客さんは全く来ないんだろうなと想定していたので、「経営的にはかなりきついだろうな」って思ってました(笑)。
──そう考えると、Twitterでのバズは理想形だったわけですね。
あるものを見せると秘密の入り口に通される
— 髙堀 健太(ホリプー) (@horipu) 2020年8月23日
不思議なコーヒー屋さんに行ってきた話。 pic.twitter.com/MZp5h69dPg
大槻
そうですね。それまではお客さんも少なかったので「どうすれば話題になるんだろう」なんて話をしていたくらいで。それが突然バズったときは驚きました。客数も10倍くらいになり、予約フォームは落ちて電話は鳴りやまないので慌てました。
──当時の混乱は計り知れないですが、丁寧に準備していたからこそのバズという感じがしますね。
第3回につづきます
お客様を巻き込むための「共犯意識」とは? by JANAI COFFEE
written by
早川大輝
フリーランスの編集者・ライター。インタビューやエッセイの編集、執筆をしています。日常的にメモを残すのが癖で、エンタメや食べ物に関することを淡々と記録することが好きです。