店を続けていくために、必ず考えることになる「お金」の問題。融資や補助金の活用から、日々発生する支出に至るまで、飲食店はそれぞれに悩みながらお金に向き合っているはず。当連載では、そんな「お金との向き合い方」について、様々な飲食店関係者にインタビューしていきます。
第一回では、ホテルとの業務提携を通して「賃料ゼロでバーを営業する」ことに成功したバー「offin’」に取材。3回に渡って、「賃料ゼロ」に至った経緯と考えを伝えていきます。
「賃料ゼロ」で始まったバー。
そのバーは、東京・両国駅から歩いて数分の住宅街にひっそりとあります。
そのおしゃれな店内を、路上からも窺い見ることのできる開放的な雰囲気。その姿は、店に入るのに躊躇するような「重い扉のバー」の対極にあります。
より多くの人が足を踏み入れ、くつろげるようにと作られたお店の名前は「offin’」。まるでリビングルームにいるときのように、お客さんが思い思いに気持ちを「off」にできるように、という思いが込められているそう。
そんな気楽に入れそうなバー「offin’」が、今回取材する「ホテルのフロント業務を代行することで、賃料をゼロにする」という仕組みで運営しているお店。
なぜそのような仕組みが可能になったのか、仕組みづくりに関わったアートコレクティブ『MIKKE』の井上拓美さんと、「offin’」店主のヤスさんに話を聞きました。
<プロフィール>
井上拓美さん
1994年生まれ。飲食店やIT企業の経営を経て、Capital Art Collective「MIKKE」を創る。「Chat Base」「KOMOREBI」「SPELL’s」「OCHILL」など、数多くのプロジェクトや新規事業をプロデュース。「私たちの株式会社」「株式会社リバ邸」取締役。
offin’のお金との向き合い方
Point 1:別の業態の課題を解決し、賃料をゼロにする(本記事)
Point 2:「続くこと」をゴールに、座組みを決める
Point 3:飲食店の得意技は、「最高の入り口」であること
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ホテルのフロント業務を、バーが行う意義
——まず整理しておきたいんですが、井上さんは、この仕組みを考えた人…ということなんですよね?
井上
そうです。僕らはバーを含めた、このホテル全体の仕組みづくりに関わっている形ですね。
——「賃料をゼロにする」という仕組みについて、そもそも、どういった経緯で考えたのでしょうか。
井上
元々は、「新しいホテルを作ろう」という話がきっかけでした。
まず投資目的で建物を建てたいというオーナーさんがいて、当時はコロナ禍になる前、ホテル建設ブームの頃だったため、マンションよりも利回りのいいホテルを建てようと。
ただ、普通のホテルを建てるだけでは面白くないと思ったみたいで。「どんなホテルを作れば面白いと思う?」と僕らの元に相談がきたんです。
——飲食店を始める以前に、ホテルを始めることがスタート地点にあったんですね! なぜ、井上さんの元に相談が?
井上
僕たちはもともと、秋葉原にあるBnA STUDIO Akihabaraというホテルの一階で「Chat Base」という使用料無料のコワーキングスペースを運営していたんですが、そこの仕組みがまさに「ホテルのフロント業務を代行して、1階スペースの賃料をゼロにしてもらう」というものでした。
その「Chat Base」を知ってくれて、話をもらったんです。
井上
ただ、その時は賃料ゼロになった場所を、「無料のコワーキングスペース」という収益を目的としない活動に使っていて。
「このスキームで、収益が出るお店をすれば、かなり条件のいいお店作りが出来るんじゃないか」と思ったんです。
──「フロント業務を代行して、賃料ゼロ」という仕組みは、飲食店側にとってはとても嬉しい仕組みだと思います。でも、ホテル側にとってメリットはあるんでしょうか?
井上
あります。フロント業務って、本当に大変なんですよ。業務自体はチェックインの手続きと、お客様対応なんですけど。
フロントって、お客様とコミュニケーションをとるいわば「ホテルの顔」の部分になるわけじゃないですか。だけど、「いい感じの接客」ってマニュアルにしづらい。
──確かにそうですね。接客業全般に言えることかもしれないですが、接客は個人の適性や能力に頼っている部分もあると思います。
井上
その点、バーのような飲食店は「その場をいい空間にする」ことが仕事なわけじゃないですか。
バーがフロント業務を代行すれば、店に立つ人が「いい店にしよう」とすればするほど、自然とホテルの入り口がいい空間になっていくんです。
──場づくりが得意な「バー」という業態と、ホテルのフロント業務はそもそも相性が良かったと。
井上
その通りです。そうしたホテルの課題を、飲食店が業務を代行することで解決できる。飲食店としても、賃料分の固定費を下げることができてお店を運営しやすくなる。
どちらのwinもあるのが、「フロント業務を代行して、お店の賃料をゼロに」という仕組みだったんです。
──バーを利用する主なお客様は、ホテルの宿泊客の方々というイメージですか?
井上
いやいや! そうとは限りません。バー自体が魅力的なお店なので、「バーに遊びにきたことをきっかけに、このホテルを知る」なんてお客様も出てくるはずです。
そのあたりも、これからお話ししますね。
中編に続きます
「続くこと」をゴールに、座組みを決める by offin’ 中編
written by
いぬいはやと
1993年生まれの編集者・ライター。ローカルを軸にした編集チーム『Huuuu』に所属し、外食、1次産業、移住などを中心に取材。趣味で酒場のメニューを収集しています。