初期投資ほぼゼロ!人気カレー店「サンラサー」に学ぶ、間借りから始まる飲食店経営 前編

飲食店が店づくりを続けていくために、必ず考えることになる「お金」の問題。融資や補助金の話から、日々発生する「お店から出ていくお金」に到るまで、さまざまな飲食店の「お金に対する考え方」を聞いていく当連載。

第二回では、初期投資の少ない「間借り営業」スタイルで自身のカレー店をスタートさせた東新宿の人気カレー店『サンラサー』に取材。3回に渡って、「間借り店から店を始める」ことに至った経緯と現在の店舗経営に与えた影響について伝えていきます。

1日30食限定!「大切な一人」のために届けるスパイスカレー店『SANRASA(サンラサー)』

日本人の国民食として古くから親しまれている「カレー」。街を歩いていて、カレー専門店を見かけることも珍しくなくなりました。

そんななか、カレー好きの間で話題を呼んでいるのが、東新宿駅から徒歩6分のスパイスカレー店『SANRASA(サンラサー)』。

5人程度でぎゅうぎゅうになるこじんまりとした店内は、オープンと同時に瞬く間に満席に。1日30食限定で提供されるスパイスカレーは、早い日にはわずか30分で完売してしまうこともあるのだそう。

季節や天候によって、35種類の中から一人ひとりに合ったスパイスを使いわけてつくるカレーは、辛すぎずまろやかで、まさに「ココロとカラダに優しい」味わい。

実は今のお店ができるまで、店主の有澤まりこさん(以下、有澤さん)は、新宿・ゴールデン街のとあるバーを間借り。現在と同じ『SANRASA(サンラサー)』という店名で、ランチタイムのみ営業をしていました。

「間借り」とは、特定の店舗を持たず、バーや居酒屋といった別の店舗を、定休日や営業時間外に借りて営業するスタイルのことを指します。

「間借り店から店を始めた」ことが現在の店舗経営のあり方にも深く繋がっていると話す有澤さん。彼女の実体験と飲食店経営に対する考え方について、詳しく聞いていきます。

カレーは「定番」と「週替わり」の2種類。盛り付けは「1種類」(1,000円)、「あいがけ」(1,300円)、あいがけ、炙りチーズ、アチャール、お任せの4種類を豪華に盛り付けた「わんぱく」(1,900円)から選べます。
こちらは、週替わりの「無水チキン ver1.02」。口の中でホロホロに溶ける柔らかいチキンカレーは、単体でも、鶏豚白湯スープと合わせて食べても二度おいしい!ミントの爽やかな香りが効いています。
「コーヒー飲む?」と食後に温かいコーヒーを淹れてくれた店主の有澤まりこさん。楽しいお喋りに花が咲き、ついつい長居したくなってしまいます。

<プロフィール>
有澤まりこさん
スパイスカレー店『SANRASA(サンラサー)』店主。雑誌『dancyu』の南インドカレー特集に魅せられ、スパイスカレーの道へ。新宿・ゴールデン街『BAR MIKI(バー ミキ)』での間借り営業を経て、2017年12月1日に東新宿へ移転。

SANRASAのお金との向き合い方

Point 1:設備投資は10万円のみ。開業資金が抑えられる!(本記事)
Point 2:"間借り店の営業"を通して、店舗独立後も支えてくださるファンを作る
Point 3:「本当にやりたい営業スタイル」を具体化させた間借り店


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スクールでの学びを活かし、ケータリングから間借り営業へ

——『SANRASA(サンラサー)』は、新宿・ゴールデン街での間借り営業からスタートしていますよね。そもそも、お店を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょう?

実は、お店をやりたかったわけではないんですよね。

——やりたかったわけではない...!?

はい。実家が経営するラーメン屋を間近で見ていて大変なのはわかっていたので、仕事にする気はなかったんです。

ただ、地元・熊本にいた中学生の頃からカレーをつくっていて、料理は好きでしたね。東京に出てきてからは、インド&スパイス料理研究家・渡辺玲さんの料理教室『サザンスパイス』や、インド料理教室『キッチンスタジオペイズリー』でカレーづくりについて学びました。

——なるほど。スクールでは、どんな学びがありましたか?

初めに通ったサザンスパイスでは、南インド料理を集中して学びました。その後、インド料理を広く学べるキッチンスタジオペイズリーに行ったら、これまで自分が仕入れてきた南インド料理の知識をより深く理解できた。料理をするうえで、アプローチの手段が増えたと思います。

——広い知識を身につけて、応用がきかせられるようになったんですね。その後、どういう経緯で間借り店を始めることになったのでしょう?

実は、最初は料理教室を開こうと思っていたんです。ですが、無名の人に「あなたから料理を習いたいです!」なんて方はなかなかいなくて、案の定、集客に苦戦していました。そこでケータリングを始めると、注文してくださる方がチラホラ出てきたんです。

あるとき、ゴールデン街の『BAR MIKI(バー ミキ)』から頼まれてケータリングを届けに行ったところ、バーのママから「すごく美味しいから、良かったらうちで間借りしてみない?」と声をかけていただいて。それがきっかけで、すぐに間借り店を始めることになりました。

——ケータリングをきっかけに、「自分のお店」の経営へ乗り出したんですね! 間借り店でお店を始めるとき初期費用はどのくらい必要でしたか?

ある程度の設備は整っていたので、お店に必要な機材や備品を追加で10万円ほど買っただけです。

——それって、つまり初期投資10万円程度でお店をひらけたってことですよね...!? 資金面では通常のお店よりかなり抑えられてますが、不安に感じていたことなどはありましたか?

間借り店であれば開業はもちろん、撤退(エリア変更)もしやすいので、「失敗したらやり直せばいいし、いざとなったら辞める選択肢もある」と思ってて不安はなかったです。当時別の仕事も並行していたこともありましたね。

——間借り店ならではの身軽さも手伝って、開業を決意できたのですね。いざ間借りで開業するために有澤さんが事前にやっておいて良かったということは何かありましたか?

飲食店で働いた経験は活きたと思います。

私は高校を卒業した頃から長い間マクドナルドのアルバイトを続けていたのですが、接客、お店のレイアウトや導線の決め方、お客さん(ターゲット)に合った価格設定、物の売り方までの一通りを学ぶことができ、これがSANRASA開業に大きく役立ちました。

例えば、お店を開けてごはんを出し、片付けて閉店する。うちでいうとオープンの11時から閉店の15時までの4時間が「お客さんに見えている部分」ですが、それ以外にもたくさんの仕事があるんです。

開店前の仕込みや店内の掃除・備品チェック、閉店後の片付けやお金の計算、翌日の仕入れのチェック。これに加えて事務作業や経理業務もあります。

——「4時間だけ」どころか、1日中仕事をしているんですね...!

そうなんです。それを事前に学べていたので、数時間の間借り営業のつもりでいざお店をはじめたら膨大な仕事量があってびっくりしてしまう、なんてことがなかったのです。

なので、もし間借りに限らず飲食店を開業するならば、「お客さんに見えている部分」以外の作業も知ったうえで始めることをおすすめします。

間借りを考えている場合は、オーナーや大家さんとのトラブル防止のため、本当に転貸(又貸し)可能な物件かを事前に確認しておくことも大事ですね。

SANRASAのお金との向き合い方1

中編に続きます

"間借り店の営業"を通して、店舗独立後も支えてくださるファンを作る by サンラサー 中編

写真:藤原 慶 編集:Huuuu

高橋まりな(ふつかよいのタカハッピー)

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高橋まりな(ふつかよいのタカハッピー)

三度の飯より酒が好きなフリーライター。合言葉は「約束はいらない、酒場で会おう」。