昆虫は「何かの代わり」じゃない。個性を活かす料理づくり by ANTCICADA

FOOD-IN編集部が注目の飲食店をピックアップ! 今回は昆虫食専門店『ANTCICADA(アントシカダ)』をご紹介します。"虫を美味しく食べる"レストランとして幅広い層から支持を集め続ける理由に迫ります。本記事は中編です。前編はこちらから。

ANTCICADAの創意工夫

前編:"虫を美味しく食べる"レストランが受け入れられた理由とは?
中編:昆虫は「何かの代わり」じゃない。個性を活かす料理づくり(本記事)
後編:お客様に応じた話し方で、昆虫食を日常のものにする

昆虫の味と個性を、料理のポイントに

では、コオロギラーメンを作っていきますね。

「コオロギラーメン」を作るANTCICADAの篠原さん ANTCICADAの篠原さんが自ら作る「コオロギラーメン」盛り付け中 ANTCICADAの篠原さんが自ら作る「コオロギラーメン」完成

──どんなラーメンなんだろう…少し緊張しますね。

どうぞ、こちらがコオロギラーメンです。

ANTCICADAの「コオロギラーメン」

説明はなしで、まずは味わってみてもらえますか?

──はい、ではいただきますね。

ANTCICADAの「コオロギラーメン」を食べるライターいぬいはやと氏

──思ったよりまろやかな味ですね…! 醤油の香ばしい感じはあるんですけど、濃いというより優しい味というか。醤油ラーメンのなかでは、かなりあっさりした味の印象です。

そうでしょう? まろやかな味は、食材としてのコオロギの特徴ですね。

こちらのコオロギラーメンには、タレ、出汁、麺、油にコオロギが使われていて。この一杯で大体160匹くらいのコオロギを使っているんです。

──そんな数を使うんですね! それに、醤油や油にもコオロギが?

コオロギを発酵させて作った醤油と、コオロギから作った香味油を加えています。出汁にも、3種のコオロギをブレンドしています。

──3種のコオロギは、それぞれ味が違うんですか?

昆虫は消化構造がシンプルなので、食べる餌によっても味が大きく変わるんです。コオロギは雑食で肉も魚も果物も食べますから、特に違いが出やすいですね。

小麦や穀物系の餌を多めにあげれば穀物っぽい柔らかい味わいに、逆に鰹節や魚粉を多めにあげると、パンチの強い味になります。あとは品種による違いももちろんあって、例えば「ヨーロッパイエコオロギ」という品種は、干しエビのような旨味が綺麗で、余韻の長い味なんです。

──虫の味を表現するのに「エビのような味」というのはよく聞きますが、エサや品種によってそんなに変わるんですね。

こちらのソーセージも食べてみてください。蚕のサナギから作ったソーセージです。

ANTCICADAの「シルクソーセージ」

──これも美味しいです! 中にあるカリッとした食感がサナギですかね。味わいはとてもクリーミーで、少しだけ草っぽいというか、土っぽい風味もあるような……。この味、なんて説明したらいいんだろう。篠原さんはいつもなんて例えますか?

面白い味ですよね。でも、僕は普段から、お客さんに味を説明したり、別の何かに例えたりすることは控えているんです。

──でも、お客さんから聞かれる機会は多そうですよね。なぜ例えないんですか?

もし食べる前に「エビに似ている風味ですよ」なんて聞くと、先入観に支配されてエビの味にしか感じられなくなってしまうと思うんです。

虫の味って、虫にしか出せないような、どこか懐かしい味わいがあるんです。せっかくはじめてのものを食べるのに、答え合わせになってしまうとつまらなくなると思うので。

──味を別のものにたとえて説明しないのも、お客さんがきちんと「はじめての体験」に向き合えるように、という心遣いだったんですね!

ANTCICADAの篠原さん

──篠原さんは、昆虫食のレシピをつくるとき、どういうことを考えるんですか?

「虫の個性を活かした料理であること」を一番大切にしています。ただ美味しい料理を作りたいなら、美味しいパスタを作ってそこに昆虫を入れればいい。でも、「美味しい昆虫食」はそうじゃないと思うんです。

たとえばコオロギラーメンは、コオロギ出汁とコオロギ醤油を使うことで、まろやかで優しいラーメンの味をつくっている。食材としてのコオロギの個性が、あのラーメンには必要なんです。

明確にコオロギを使う意味があるからこそ、胸を張って「コオロギの料理です」と言えるはず。そもそもの食材としての「昆虫の味」があるので、濃い味付けでその風味を殺したりも絶対にしません。

──昆虫を「美味しい食べ物」として扱うために、創意工夫されているんですね。だからこそ「エビみたいな味」と例えるのではなく、「コオロギの美味しさ」そのものを届けようとしている。

世の中にこれだけ美味しい料理や食材が溢れている中で、あえて虫を食べる意味はあるのかな?とも思っていて。もちろん、栄養価や食糧不足の観点で可能性のある食材ではありますが、それは「料理」とは別の話なので。

「昆虫食でしか出せない味があるから、昆虫料理の可能性を追求する」ことを考えています。

──それは、レシピの工夫によって?

当然それもありますし、食材として「育てる」段階にも、まだまだ工夫の余地があります。思い描く味の昆虫を手に入れるために、養殖家の方々と密に連絡を取り合ったりもしていて。

「昆虫ってどんな味がするんですか?」の先に、育て方などで味をコントロールしていくもっと奥深い世界があります。

そこまで追求していかないと、人間が長い歴史をかけて改良してきた牛や豚のような食材に、昆虫が勝てるわけがないと思うんです。

ANTCICADAが受け入れられる理由 「昆虫の味を何かに例えない」

後編に続きます。

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(撮影:荻原楽太郎 編集:Huuuu

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いぬいはやと

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いぬいはやと

1993年生まれの編集者・ライター。ローカルを軸にした編集チーム『Huuuu』に所属し、外食、1次産業、移住などを中心に取材。趣味で酒場のメニューを収集しています。