飲食店の苦情、クレーム対策まとめ。サイレントコンプレーナーって知ってる?

飲食店はお客様からの苦情が多い業種です。中には理不尽なものもあり、頭を悩ませているオーナーさんも多いのではないでしょうか?そこで本記事では、飲食店の苦情対策についてまとめました。悪質なクレーマーへの対処方法も解説していますので、ぜひ現場で活用してください。

お客様からの苦情。どう対応する?

2017年に日本労働組合総連合会が発表した「消費者行動に関する実態調査(※1)」によると、サービスや商品に対する苦情・苦情を言ったことがあると答えた人は、39.2%。その内容は「食べ物に異物が混入していた」が32.4%、「注文した料理が出てこない・出てくるのが遅い」が30.4%、「注文した料理と出てきたものが違う」が26.3%と、飲食店に関しての苦情が上位を占めています。この他にも「従業員のマナー、態度が悪い」が17.6%、「食器が汚れている、欠けている」が9.7%と、飲食業で起こり得るものが非常に多いことが分かります。

日本労働組合総連合会「消費者行動に関する実態調査」(2017年)

お客様からの苦情には、つい慌ててしまうこともあると思いますが、ほとんどの場合、きちんと謝罪をしてしかるべき対応をすれば、大きな問題になることは多くありません。

大切なのは初期対応です。初期対応を間違えると、お客様は別のことに苦情をつけ始めます。最初の5分できちんと対応できるように心掛けましょう。

お客様
注文したメニューがなかなか来ないんですけど…

スタッフ
す、すみません! でも伝票に記載のものはすべて揃ってるはずで……あれ…?

お客様
……。刺身の盛り合わせも頼んだのに、来てないんですよ

スタッフ
あ、えっと、通ってないかもしれません…誰が注文取ったのかな、え〜っと…ご、ご注文されたスタッフが誰かわかりますか?すみません……

お客様
わかりませんし、それ聞いてどうするんですか? もう、キャンセルでいいです(怒)

スタッフ
えっ、あの…はい……

はじめに声をかけた時は激怒していたわけではないのに、対応によって不満が膨らんでしまいました。

この場合、まず謝罪したまではよいものの、あせって返答につまってしまったこと、お客様のことばをやや否定する表現を含めてしまったこと、さらに不要なお伺いをしてしまったことで、油に火を注でいる状態に。

ただし、上記のようなやりとりのあとに対応したスタッフが時間をおかず責任者に報告すれば、すみやかに謝罪にお伺いし解決策をご提示することにくわえ、退店時にもあらためてお詫びの一言を添えることでフォローできるケースもあります。

逆に、対応スタッフが報告をせずに自分の中で完結してしまうと、お客様の不満も取り除けないことはもちろん、スタッフ側も解決策がわからないまま成長できず、お叱りを受けてしまったことでモチベーションも低下、かつ誰も気づけないという負のスパイラルに陥ります。

いずれにせよ、事前に「苦情を受けた場合の対応フロー」を決めておくことが必要です。

マニュアル作成、事前練習

お客様からの苦情にきちんと対応するためには、マニュアルを用意してスタッフに理解してもらうようしっかり説明し、さらに、いつでも読み返せるよう資料を常備・配布しましょう。周知が済んだら、後日ロープレを行うと効果的です。

苦情に対応するには冷静さが大切。マニュアルで事前に苦情への対応を知っていれば、いざというときに対処しやすくなります。

お客様への対応は、以下のような手順で行います。

  1. お客様のご意見をひと通り聞く
  2. きちんと謝罪する
  3. お客様のご意見を要約し、確認する
  4. 解決案を提示する

上記は対お客様におけるステップですが、実際には、4のあとに原因究明をし、再発防止策をまとめ、スタッフ全員に周知するところまでが一連の流れになります。

先述しましたが、苦情は初期対応が大切です。たとえどんなに理不尽な理由でも、最初に「不快な思いをさせてしまった」ことをきちんと謝罪することで、のちに大きな問題に発展することを防げます。そのあとは、話の腰を折らずにお客様の不満を聞き出します。そして何を要求しているのかを聞き、解決策を提案。これらをきちんと行えば、多くのお客様は納得してくれるはずです。

もしアルバイトスタッフが苦情を受けた場合は、すぐに社員に報告させましょう。対応する人が変わることで、お客様が冷静になる場合もあります。

またお客様からの苦情は、スタッフ全員で共有。同じ苦情をいただかないよう、対策をすることも大切です。

飲食店のクレームに対する改善策、再発防止策を話し合うスタッフ
単なるルールとして覚えてもらうより、理解できるようコミュニケーションをとれると、スタッフ側も理解しやすくなります

飲食店によくあるクレーム例

飲食店でクレームが起きている図

では飲食店では実際にどのような苦情があるのでしょうか?下記に飲食店でよくある苦情をまとめました。

毛髪の混入

料理に毛髪が混入してしまうことは飲食店において起こり得る可能性が高いもの。東京都福祉保健局の調査(※2)によると、平成30年に発生した異物混入事例は863件。そのうち毛髪の混入は85件と、およそ1割を占めています。

毛髪が混入した場合には、すぐに確認して謝罪をし、料理を新しいものと交換します。他にオーダーが入っている場合でも、できる限り苦情を出したお客様の料理が後回しになりすぎないよう配慮しましょう。ただし、お客様がお急ぎなどで「新しい料理は要らない」と拒否した場合は、作り直す必要はありません。このとき、代金はいただかないのが基本です。

また、二度と同じことがないように防止策を考えることも大切です。ユニフォームに着替える前に髪をとかしたり、帽子や三角巾をつけたりして、毛髪が混入することを防ぎましょう。

昆虫の混入

野菜などに付着していた虫を落としきれなかった、外から入り込んだ小さな虫に気付かなかったなど、飲食店では虫の混入にも気をつけなければなりません。先述した東京福祉保健局の調査では、異物混入863件のうち、虫の混入事例は250件あります。中でも93件はゴキブリの混入と、およそ4割を占めています。

お客様への対応は、基本的に毛髪のときとおなじです。丁寧に謝罪し、すぐに料理を交換します。もちろん、代金はいただきません。

虫の混入を防ぐには、とにかく調理場をしっかり清掃し、常に清潔を保つことです。また、食材をストックする収納ボックスにも配慮が必要です。とくに段ボールは虫が発生しやすいため注意しましょう。

飲食店の食材保管場所の例

料理提供が遅い

注文が立て込んでいると、お客様に料理を出すのが遅くなってしまうこともありますよね。あまりに遅い場合や、あとから注文したお客様の料理が先に提供された場合、お客様が怒って帰ってしまうことも考えられます。

こちらもはじめに謝罪し、誠意を見せることが大切。厨房に「あとどのくらいで料理を提供できるか」を確認し、お客様に提供までの具体的な時間を知らせましょう。

お店が混んでいる場合には、来店時に「大変込み合っておりますので、料理の提供までにお時間がかかります。よろしいですか?」と説明しておくことで苦情を防げます。

注文間違い

お客様の注文と違ったメニューを出してしまったために、苦情となる事例もあります。丁寧に謝罪し、すぐに正しいメニューを提供しましょう。

注文間違いは、メニューを復唱してお客様に確認することで防げます。手書きの伝票を利用している場合は、読みやすい字で書くようスタッフに周知します。

人的ミスが起きやすい業務はシステム導入もアリ

注文ミスは人間が対応していればゼロにはできない上、多忙になるほどその確率は高くなります。解決策として、モバイルオーダーの導入という選択肢も。注文ミスもなくなる上、スタッフの負担を減らせます。その分、そもそもお客様からの苦情につながりやすいフローの改善や、満足度アップにつなげるおもてなしに注力できます。
くわしく:最近話題のモバイルオーダーってなに?

スタッフの態度

スタッフの態度や言葉遣いに対してお怒りになるお客様もいらっしゃいますよね。この場合も、まずは謝罪です。スタッフの対応に苦情を申し出たお客様の場合、はじめは別のことで伝えた苦情に対応したスタッフの態度がよくなかったために、不満が増幅してしまっていることも考えられます。責任者が出て、誠意のある謝罪をするべきでしょう。

苦情はむしろ歓迎すべき?

上記のように直接苦情を申し出てくださるお客様は、ありがたい存在ともいえます。ほんとうに求めていることをお店側にしっかりお伝えいただけているためです。他のお客様の代弁となる役目を果たしている場合もあります。さらに、誠意のある対応をすることで、以前より良い評価をくださることも。

むしろ怖いのは、不満があるのにお店に言わない「サイレントコンプレーナー」です。こうしたお客様は、改善を求めないままお店に来店しなくなったり、SNSに書きこむなど、お店の外で評判を下げる行動をとることがあります。

先述した日本労働組合総連合会の調査では、60.8%の人は苦情を言ったことがなく、とくに若い世代は苦情を言わない傾向にあります。実際は9割程度のお客様がサイレントコンプレーナーであると言われています。

お店に直接クレームを言う人とサイレントコンプレーナーの違い

こうしたお客様の苦情をキャッチするには、直接言わなくても伝わる方法を採りましょう。アンケートなど、顔を合わせず、実名を明かさなくても意見を伝えられる手段が有効です。

悪質なクレーマーには毅然とした態度で

多くのお客様はきちんと謝罪して対応すれば、それで事が済みます。しかし中には理不尽な言いがかりをつけたり、嘘の苦情を言ったりして慰謝料などを要求する悪質なクレーマーもいます。

こうしたクレーマーには毅然とした態度で臨みましょう。話が堂々巡りで、一向に解決策を提案させてくれない、要求が曖昧でただ怒鳴り散らすだけ、無理な要求をしてくるというお客様は、悪質なクレーマーです。こうしたお客様には、はっきりNOと伝え、取り合わないようにしましょう。

また、土下座の強要や脅迫にあたる言動は、刑事罰に問うこともできます。こうした場合は「弁護士や警察に相談する」と主張することで、収束に向かうでしょう。

まとめ

サービス業である飲食店は、どうしても苦情対応は避けられませんが、きちんと対応することで苦情を味方につけることができます。もし悪質なケースがあっても要求を飲まず、冷静に対処しましょう。

(※1)日本労働組合総連合会「消費者行動に関する実態調査」
(※2)東京都福祉保健局 平成30年度 食品衛生関係苦情処理集計表