お客さんのワガママも、バランスよくメニューに入れる by ぼんご 中編

これからの飲食店に必要なノウハウや考え方を、お店のみなさまへインタビューする連載「愛される店のカラクリ」。お店ならではの“個性”が生まれた理由、大切にしている考え方を伺いながら、愛される飲食店の作り方を紐解きます。

第3弾としてご紹介するのは、東京・大塚にあるおにぎり専門店『ぼんご』。56種類にも及ぶ豊富なメニューと、食べ応えのある具材たっぷりなおにぎりで多くの人に親しまれるこのお店に、「愛されるメニューの作り方」についてインタビュー。3回にわたってじっくりお届けします。

昭和35年創業の老舗『おにぎり ぼんご』の2代目店主、右近由美子さん

<プロフィール>
右近由美子さん
昭和35年創業の老舗『おにぎり ぼんご』の2代目店主。高校卒業後、新潟の燃料会社に就職するも、上京。創業者である右近 祐(たすく)さんと結婚したことを機に、おにぎり屋の人生が始まる。

ぼんごに学ぶ、愛されるメニューの作り方

Point 1:カウンターで握るスタイルだから、お客さんのニーズに気づく
Point 2:お客さんのワガママも、バランスよくメニューに入れる(本記事)
Point 3:毎日来ても飽きないように、新しい味を探し続ける


※クリックで各記事に飛べます

お客さんの要望を聞くうちに、どんどん増えていったメニュー

——ぼんごには、おにぎりだけで56種類ものメニューがあるんですよね。初めからここまで種類があったんですか?

いやいや、私が初めてお店に来たときは「しゃけ」や「たらこ」「昆布」「おかか」など定番おにぎりが20種くらいでしたよ。私が結婚してお店を手伝うようになってからも、しばらくはそのままでした。

——なにがきっかけでメニューが増え始めたんですか?

大学生の甥っ子(妹の子ども)が二人、うちで居候していた時期がありまして。そのときに『ぼんご』のメニューを見て言われたんです。「いまどき、ツナのおにぎりが無いなんてありえない。コンビニ行ってきなよ」って。「え、そうなのか……」って驚いたんですけど、コンビニに行ったら、たしかにツナのおにぎりが並んでいて。

おにぎり ぼんごの壁に並ぶ56種類のメニュー

私は自分の嫌いなものは絶対に出したくないんです。お肉も苦手だしマヨネーズも苦手で。だからツナも絶対出さないと思ってたんですけど、変えなきゃダメだなと思って、甥っ子の意見を取り入れてみたんです。お客さんも常連客ばかりだったので、メニューに飽きないように、もう少し種類に幅を持たせたいという思いもありました。

——まさか甥っ子さんの一言がきっかけだったなんて。

やっぱり食べ物は若い人のものですからね。彼らの食事の好みには、ヒントが多いなと思いました。

昭和35年創業の老舗『おにぎり ぼんご』の2代目店主 右近由美子さん

たとえば、唐揚げを始めたときも、初めは上手くいかなかったんです。唐揚げをおにぎりに入れると、パサついてしまってジューシーさが失われる。なにかいい方法はないかなと思ってたら、甥っ子たちが唐揚げにマヨネーズをつけて食べているのを見かけて。

これは試してみようと思って、唐揚げを刻んだものに、少し醤油を入れたりして、マヨネーズで和えてみたんです。見た目の色は悪かったのでお客さんも恐る恐る口に運ぶんですけど、食べてみたらこれが美味しい。ほとんど唐揚げしか注文しない人が出るほど、人気商品になりました。

——話を聞いているだけで食欲が湧いてきますね……。若い人の意見を取り入れるという意味では、お客さんから生まれたメニューもあるんですか?

ぼんごのおにぎり具材のひとつである、冷凍した黄身を醤油漬けにした「らんおう」
冷凍した黄身を醤油漬けにした「らんおう」など、ぼんごの具材はどれもひと手間加えられたものばかり

もちろん! というか、ほとんどのメニューはお客さんの「これ食べたい」という要望から生まれました(笑)。たとえば、「たらこにマヨネーズ入れて」ってこっそり頼んでくる常連さんがいて。お店に他のお客さんがあまりいないときは「しょうがないわねえ、内緒だよ?」みたいな感じで、マヨネーズやネギをサービスしてたんです。

でも、「ここだけだよ」って話をするんだけど、だんだんと歯止めが効かなくなって、他のお客さんがいるときでも平気で「マヨネーズ入れて」って言うようになっちゃって。それなら、メニューにしちゃえと。

——どうも既視感がある流れですね。お客さんのしてやったり顔が目に浮かびます(笑)。

でも、そしたらマヨネーズメニューがどんどん増えていってしまったんです。「納豆にマヨネーズ」を入れたいというお客さんもいて、さすがにそれはやりませんでしたが。このままだと全部マヨネーズになってしまうと危機感を覚えました(笑)。

だからどこかで線引きをしようと決めて、いまメニューにあるのは「唐揚げマヨネーズ」「明太マヨネーズ」「ツナマヨネーズ」「シャケマヨネーズ」「じゃこマヨネーズ」の5種類。ただ、途中からメニューとは別にトッピングを自由に選べるようにしたので、基本的には具材そのままのモノを置いておいて、あとは「マヨネーズを入れたかったら自分で入れてください」という有料トッピングができる形にしています。

——対応が柔軟ですね。でも、初めは「自分の嫌いなものは出さない」というメニューへの強い想いがあったわけですよね。まわりの人の意見を取り入れながら、それを崩していくことの葛藤はなかったんですか?

昭和35年創業の老舗『おにぎり ぼんご』の2代目店主 右近由美子さん

実は「自分の嫌いなものは出さない」というスタンス自体は変えてなくて、私が苦手なものでも、ちゃんと私が食べられるような味付けにしてるんです。

それに、そもそも私の意見って重要じゃないなと思うんです。重要なのはお客さんがなにを食べたいか。だから、提供するおにぎりも、お客さんの声を聞きながら改良を続けるようにしてるんです。だって、私たちが一番見たいのは、お客さんが喜ぶ姿ですから。

お客さんのワガママも、バランスよくメニューに入れる

後編につづきます

毎日来ても飽きないように、新しい味を探し続ける byぼんご 後編

写真:土田 凌 編集:Huuuu

早川大輝

written by

早川大輝

フリーランスの編集者・ライター。インタビューやエッセイの編集、執筆をしています。日常的にメモを残すのが癖で、エンタメや食べ物に関することを淡々と記録することが好きです。