これからの飲食店に必要なノウハウや考え方を、お店のみなさまへインタビューする連載「愛される店のカラクリ」。お店ならではの”個性”が生まれた理由、大切にしている考え方を伺いながら、愛される飲食店のつくり方を紐解きます。
第4弾としてご紹介するのは、東京・吉祥寺と渋谷に店舗を構える『挽肉と米』。定食1種類のみのメニュー構成ながら、連日行列ができる人気店となった秘訣は一体何だったのでしょうか。3回にわたってじっくりお届けします。
たった1種類の特別な定食が食べられるお店『挽肉と米』
食卓に並んでいると、何はなくとも嬉しくなってしまうメニューのひとつが「ハンバーグ」ではないでしょうか。
じゅわっと肉汁たっぷりのハンバーグにがぶりとかぶりつく瞬間は、何にも代え難いものがあります。こうして言葉になっただけで、あの香ばしく美味しい匂いがこちらまで漂ってくるような気がしませんか。
焼きたてのハンバーグを、炊きたてのお米と共に食べられるお店があったら......そんな想いから誕生したのが、東京・吉祥寺と渋谷に店舗を構える『挽肉と米』です。
店内に入るとすぐ、ジュージュー焼かれるお肉の匂いと、もくもくと上がる煙が出迎えてくれます。
大きな半円型のカウンターの中にある焼き場で店員さんが挽肉を調理し、お客さんは目の前で焼かれた出来立てのハンバーグを食べることができます。
店内には羽釜が4台設置されており、常に炊きたてのお米が食べられるのも魅力のひとつ。
メニューは「挽肉と米 定食」の1種類のみ。
炊きたてご飯、味噌汁、そして店員さんが目の前で焼いてくれたハンバーグを3つまで食べられるというスタイルです。
「できたての美味しさ」に徹底的にこだわり抜くことで、多くのファンを集めている『挽肉と米』。
ですが、ひとつだけ気になることがあります。このお店、看板やメニューなど、どこを見ても「ハンバーグ」とは謳っていないんです。
店名は『挽肉と米』。メニュー名も「挽肉と米 定食」。できたてのハンバーグの美味しさをどこまでも追求しながらも、なぜあくまでも『挽肉と米』という名前にこだわるのでしょう?
そして、なぜここまで多くのファンを集めることができたのでしょうか。
今回は、お店をつくった山本昇平さん(以下、山本さん)にそのお店づくりへのこだわりやそこに秘められた想いを聞いていきます。
<プロフィール>
山本昇平さん
株式会社俺カンパニー代表取締役。ハンバーグ専門店『山本のハンバーグ』を開業すると瞬く間に人気店に。そのノウハウを活かし、2020年6月には『挽肉と米』をオープンさせた。
『挽肉と米』のカラクリ
Point 1:お客さんの「想像」と「体験」のギャップをなくし、確実に期待に応える(本記事)
Point 2:「できたての美味しさを提供する」ことを軸足に、何ができるのか考える
Point 3:万人に喜んでもらえるよう「体験型」の店舗設計に
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お客さんの期待に応えるお店づくりを目指して
──『挽肉と米』は「炊きたてのご飯に焼きたてのハンバーグを乗せる」というコンセプトのもと、できたての美味しさ楽しめるお店として話題を集めてらっしゃいます。改めて、このコンセプトを思いついたきっかけを教えていただけますか?
食肉関係の仕事をしている友人と話をしていたときのことがきっかけでした。
ある日「山本くんはどんな肉が好きですか?」と聞かれたんです。僕は「赤身の肉が好きですね」と答えました。
すると友人から「僕はいつも『炊きたてのごはんの上の肉』って言います」と返されて。これには「なるほど!」と思ったんですよ。
使う肉が何であっても、炊きたてのご飯の上に乗せて食べる肉は美味しい。みんながイメージする「当たり前に美味しい瞬間」を提供できたら、期待に応えられる店になるのではないかと感じて、このコンセプトにたどり着きましたね。
──確かに「当たり前に美味しい瞬間」にこだわり抜いたお店って、ありそうでどこにもないですもんね。だからこそ「もう一度味わいたい!」と繰り返し足を運びたくなりますし、実際リピーターのお客さんも多いんですね。
──1つ気になったことがあります。提供しているのは「ハンバーグ」なのに、店名を『挽肉と米』にされた理由は何だったのでしょう?
店名を考える段階で「来店前のお客さんの想像」と「お店で提供する体験」とのギャップをなくしていきたいと思ったからです。店名は、そのために必要なひとつのツールだと考えているんですよね。
──『ハンバーグと米』ではなくあえて『挽肉と米』と表現することで、そのギャップをなくせると。なぜその結論に至ったのでしょうか?
みなさんが想像する「ハンバーグ」の大半は、鉄板に乗って、ソースがかかっていて付け合わせがあるようなものではないでしょうか。
それに対して、僕たちが提供するのは目の前で焼いたものをそのままお客さんに提供するシンプルなもの。ソースもかけず、付け合わせもないのでいわゆる「ハンバーグではない」と言われるかもしれません。
お客さんにはハンバーグへの先入観がない状態で体験して欲しいと思ったからこそ、あえて「挽肉」と打ち出しているんです。これは、僕の過去の経験も影響しています。
──どのような経験をされたのでしょうか。
以前、『俺のハンバーグ山本』(その後、『山本のハンバーグ』に店名変更)というお店を運営していました。
そこでは当初、『俺のハンバーグ』という名前でオーソドックスなスタイルのハンバーグを提供していました。しかし、店名を見たお客様の期待するハンバーグはもっと個性的なもののようでした。
それに気づいて、お客様の期待に答えられるように、『俺のハンバーグ』というメニュー名のまま、他では食べられない個性的な商品にリニューアルしました。店名と商品に筋が通り、多くのお客様から高評価を得るようになりました。
その商品が美味しいかどうか以外にも、お客様の期待に応えられているかどうかが大切だと学んだんです。
──お客さんが持つであろう「イメージ」まで想像して店名を考えたんですね。
はい。来店前のお客様がもつイメージと、実際の体験とのギャップをなくすことで、確実に期待に応えられるようなお店にしたいと思いました。
中編に続きます
「できたての美味しさを提供する」ことを軸足に、何ができるのか考える
written by
高橋まりな(ふつかよいのタカハッピー)
三度の飯より酒が好きなフリーライター。合言葉は「約束はいらない、酒場で会おう」。