万人に喜んでもらえるよう「体験型」の店舗設計に by 挽肉と米

これからの飲食店に必要なノウハウや考え方を、お店のみなさまへインタビューする連載「愛される店のカラクリ」。お店ならではの”個性”が生まれた理由、大切にしている考え方を伺いながら、愛される飲食店のつくり方を紐解きます。

第4弾としてご紹介させていただくのは、2020年6月1日に東京・吉祥寺にオープンし、その後渋谷にも2店舗目を展開した『挽肉と米』。

定食1種類のみのシンプルなメニュー構成ながら「できたて」にとことんこだわり抜いた同店は、口コミが口コミを呼び、多くのファンに愛されています。

オーナーの山本昇平さんにお伺いしたお店づくりにおけるポイントを、3回にわたりお届けします。

『挽肉と米』のカラクリ

Point 1:お客さんの「想像」と「体験」のギャップをなくし、確実に期待に応える
Point 2:「できたての美味しさを提供する」ことを軸足に、何ができるのか考える
Point 3:万人に喜んでもらえるよう「体験型」の店舗設計に(本記事)


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コンセプトから逆算し、適切な店舗設計を決めていった

──『挽肉と米』に訪れたとき、印象的だったのがカウンターのみの店舗設計でした。

「挽肉と米」のカウンター席

来店したお客さん全員に同じ美味しさを提供するためには、カウンター席しかありえなかったんですよね。

というのも、『挽肉と米』が実現したいのは単なるできたてではなく「超できたて」だったんです。

──超できたて......?!

「挽肉と米」内観

キッチンで焼きたての肉を皿に盛って、ホールスタッフがお客さんに持って行く。それは「できたて」ですが、『挽肉と米』では肉を焼いている人がそのまま商品を渡せたら「超できたて」になると考えたんですよ。

そうしたら自然とお客様との距離感も決まっていきました。

どの席に座っても等しく焼き場に近く、さらにキッチンに必要な部材を置いたうえで最大席数を取ろうと思ったら、今のレイアウトしかあり得なかったんです。

──カウンターの目と鼻の先に焼き場があることには驚きました。スタッフが焼きたての肉をトングで掴み、お客さん全員に手渡しできる程の距離の近さは、ジュージュー焼ける肉の音と相まって、「超できたて」の臨場感がありましたね。ほかに内装を考えるうえで意識したことはありますか?

デザイン性だけを重視して内装づくりをすることはありませんでしたが、挽肉と米に目がいくように卓上をすっきりさせる、薬味の置き方や照明の照らし方を考えるといった細かい部分は、ブランディングやPRを担当してくださった「POOL inc.」に相談しながらアレンジしていきました。

——具体的には、どんな工夫をされたのでしょうか?

「挽肉と米」のカウンター席「に設けられた薬味

お客さんが「挽肉と米」に集中することができるように、店舗全体の空間照明を少なくし、必要なところだけを効果的に照らすようにしました。

たとえば、卓上を照らすライトは薬味置きの裏側につけて1つにまとめています。客席の周りにもできるだけ余分な要素を増やさないようにしたんです。

「挽肉と米」のカウンター席イメージ

それから、カウンターに置くものは調味料など最小限にしています。カトラリーやメニューは、カウンターに付属した引き出しにすべて収納できるようになっています。

ハンバーグを焼くときに油煙が舞うので、汚れにくいようにという理由と、できるだけ卓上の要素をシンプルにして、料理に集中していただくためですね。

——内装から卓上に至るまで、お店のすべての要素が、たったひとつの「挽肉と米定食」に集中してもらえるように、考え尽くされているんですね。

「挽肉で世界を制する」。国境を超えた展開を目指して

──さまざまなこだわりを伺ってきて、『挽肉と米』はお店が大事にしていることがお客様にきちんと伝わるようなメニュー提案や店舗設計を効果的に行なっていると感じました。最後に今後の展望を教えていただきたいです。

「挽肉と米」代表・山本昇平さん

今後は、世界に向けて『挽肉と米』を出店していきたいと思っています。挽肉って、世界中にある文化なんです。ただあまり重要視されていないだけで、美味しい挽肉料理の文化をしっかり伝えることができれば、挽肉はもっと世界に通用する。

その考えを「挽肉で世界を制する」と言葉にしています。そのためにも「体験型」を重視したお店づくりをしているんです。

──確かに、座っているだけでライブキッチンのようにワクワクする楽しさがありました。

それは嬉しいです!ハンバーグや米について延々と説明するよりも、お客さんの目の前にある大きな釜で米を炊き上げ、焼きたてのハンバーグをお皿にポンと置かれて「これをご飯に乗っけて食べてみてよ!」と言われた方がハッピーなのではないかと思うんです。

みんなそれぞれ記憶に残っている商品のリストが違うだけで、食べて「美味しい」と思うものはたくさんありますよね。

日本人にとっては馴染み深い「ハンバーグ」という食材が、海外のお客さんにどのように受け止めてもらえるか、間口を広げるべくチャレンジしていきたいですね。

万人に喜んでもらえるよう「体験型」の店舗設計に

まとめ

山本さんが、自身の体験をもとに「挽きたて、焼きたて、炊きたての美味しさをお客さんに提供する」という志を持ってスタートした『挽肉と米』。

『挽肉と米』のお店づくりは店名やコンセプト、店舗設計、メニュー構成に至るまで、一見いたってシンプルなように思えます。ですが、実は「お店がお客さんに提供したいこと」と「お客さんが実際に体験できること」のギャップをとことん埋めるべく、綿密に考え尽くされていました。

その哲学は、直接渋谷店や吉祥寺店に足を運んだとき、きっと肌で体感できるはずです。

炊きたての米と共に、ハンバーグをひと口頬張ったときのあの瞬間は、きっと誰しもが忘れられない体験となることでしょう。

シンプルな1種類のみの定食が鮮烈に印象に残り、ついつい誰かに教えたくなってしまう。だからこそ『挽肉と米』は多くのお客さんに愛され、客足の絶えない人気店になっているのだと思います。

山本さんの言葉「挽肉は世界を制する」──『挽肉と米』が世界へ羽ばたき、多くの人を歓喜させる光景をいつかこの目で見てみたいと思いました。

(撮影:常住 祐輝/編集:Huuuu

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今回は3記事にわたり『挽肉と米』をご紹介しました。

本連載では、これからの飲食店に必要なノウハウや考え方をお店のみなさまへインタビューし、お店ならではの”個性”が生まれた理由、大切にしている考え方を伺いながら、愛される飲食店の作り方をひもといていきます。

お店によって全く異なるさまざまな工夫に目が離せません。

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高橋まりな(ふつかよいのタカハッピー)

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高橋まりな(ふつかよいのタカハッピー)

三度の飯より酒が好きなフリーライター。合言葉は「約束はいらない、酒場で会おう」。