「できたての美味しさを提供する」ことを軸足に、何ができるのか考える by 挽肉と米

これからの飲食店に必要なノウハウや考え方を、お店のみなさまへインタビューする連載「愛される店のカラクリ」。お店ならではの”個性”が生まれた理由、大切にしている考え方を伺いながら、愛される飲食店のつくり方を紐解きます。

第4弾としてご紹介させていただくのは、2020年6月1日に東京・吉祥寺にオープンし、その後渋谷にも2店舗目を展開した『挽肉と米』。

定食1種類のみのシンプルなメニュー構成ながら「できたて」にとことんこだわり抜いた同店は、口コミが口コミを呼び、多くのファンに愛されています。

オーナーの山本昇平さんにお伺いしたお店づくりにおけるポイントを、3回にわたりお届けします。

『挽肉と米』のカラクリ

Point 1:お客さんの「想像」と「体験」のギャップをなくし、確実に期待に応える
Point 2:「できたての美味しさを提供する」ことを軸足に、何ができるのか考える(本記事)
Point 3:万人に喜んでもらえるよう「体験型」の店舗設計に


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「できたての瞬間」にこだわり抜く

──実際に『挽肉と米』のお肉を食べてみて、焼きたての美味しさはもちろん肉本来のジューシーな旨味にも感動しました。焼き方や素材にはどういったこだわりがあるのでしょうか?

炊きたてのご飯と焼きたてのハンバーグに加え、お味噌汁がついた「挽肉と米 定食」
炊きたてのご飯と焼きたてのハンバーグに加え、お味噌汁がついた「挽肉と米 定食」。生たまごは1人1個まで無料

ありがとうございます。まず焼き方についてですが、ハンバーグを焼く「焼き場」には2種類あって。まずはロストルという太めの焼き網でハンバーグの表面に焼目をつけます。

「挽肉と米」にて肉を強火で肉を焼くシーン
ロストル(格子が太めの焼き網)でしっかりと焼き目をつけていきます

その後、目の細かい網の焼き場に移して弱い炭火でゆっくりと中まで火を通しています。こうすることでジューシーな肉汁を閉じ込めることができるんです。

「挽肉と米」にて肉を弱火で肉を焼くシーン
ゆっくり火を通すのは、目の細かい焼き網で

お肉は100%国産牛を使用し、その新鮮さを保つために毎日お店で挽いて提供しています。

ちなみに、国産和牛を選んだのは「美味しいと思ったから」だけではないんです。

──味や品質以外にも理由があるんですか?

はい。出店前、店づくりを一緒にする仲間のなかで「『挽肉と米』で使用予定の『挽肉』は何の肉だと思いますか?」というアンケートをとったのですが、全員が「牛肉」と回答したんです。

「挽肉」から「牛肉」を連想する方が多いのであれば、100%国産和牛を使おうと。お客様の想像と体験にギャップを作らないように、期待に応えられるようにとの思いから、牛肉を使うことを決定しました。

「挽肉と米」にて使用される100%国産和牛の肉

──なるほど。美味しさにはもちろんこだわりながらも、お客さんが期待するイメージを損なわないように選ぶ挽肉の種類まで考え抜いているんですね。

そうして焼きあがった挽肉は「小さいサイズを3つ」という提供の仕方で、お客様の目の前にある網にお渡ししていきます。それは最初から最後まで、焼きたてを食べていただくためです。

1つお渡しした後はお客様の食べるスピードを見つつ、次の挽肉を焼き始める。1つのサイズを小さくして、焼きたての挽肉を何度も楽しめるようにしています。

──とことん「できたて」にこだわっているからこその提供方法ですよね。あつあつの挽肉が3回も食べられるというのはかなり新鮮で、満足度も高かったです。そんな挽肉の美味しさをより引き立ててくれるのが「お米」ですよね。

「挽肉と米」にて使用される米・秋田県産「あきたこまち」
取材日当日の品種は秋田県産の「あきたこまち」

そうですね。さまざまな生産者さんの紹介を受けて米を試食し、自分たちが本当に美味しいと感じる銘柄を年間20〜24回程度変えながらお客さんに提供しています。せっかくお店に来ていただけるなら、肉だけじゃなく、さまざまな美味しいお米と出会う場でもあってほしいと思って。

──米の一粒一粒がふっくらしていて本当に美味しかったのですが、炊き方にもこだわりがあるのでしょうか?

「挽肉と米」のカウンターから見える羽釜
お客さんの座るカウンターからも、いくつもの羽釜が美味しい白米を炊く様子が見て取れる

提供する白米はすべて、羽釜を使ってその日に炊きあげたもの。羽釜は中で米の対流が生まれやすく、均等に熱が伝わるから美味しく炊き上がるんです。

炊き方のこだわりを数え出せばたくさんあります。米の品種ごとに水分量や燃焼時間を調整し、炊き方も都度変えているんですよ。

そうした工夫をしながら4台の羽釜を常にフル稼働させて、いつでも炊きたてが提供できるようなオペレーションにしています。

──挽肉に続き、米も炊きたてであることにこだわっているのですね。ここまで「できたてを提供すること」を強く意識している理由は何なのでしょう。

『山本のハンバーグ』のキッチンで仕事をしていたときに、オーブンから料理を出した瞬間など「できたての瞬間」がいくつもあって。

高級店では「お客さんが来店してからお米を炊く」というサービスを行なっている店舗もあるかもしれませんが、日常的にふらっと立ち寄れる価格帯のお店で「できたての瞬間」だけにこだわった専門店ができたらすごく面白いのではないかと思ったんです。

「挽肉と米」にて焼かれた肉
1つのサイズが小さい分、3回も焼きたてを味わえる嬉しい心配り。

──すべてにおいて「できたてを提供する」というコンセプトのお店を出店するうえで、課題はありましたか?

「挽肉と米」代表・山本昇平さん

やっぱり「美味しいできたての提供」にこだわり抜いたお店づくりは、収益性のいいプランだとは言えませんでした。コストを抑えようと思えば、本当はもっと抑えられる。

それでもこのお店が実現できたのは、「まず自分たちが提供したいサービスを突き詰める」ことに軸足を置いてお店をつくってみようとメンバー全員で意思を固められたのが大きかったと思います。

経営的にリスクはあるかもしれませんが、リスクを負っていこうという考えがメンバーと一致していました。

「自分たちの提供したいサービス」は「できたて」の美味しさを、最大限に伝えること。この軸をぶらさないという強い想いがあったからこそ、素材選びから提供方法、お店の設計までこだわりぬいたお店作りをすることができました。

ちなみに「できたての美味しさを提供するにあたって理想とする状態」を考えたとき、「3たて」(挽きたて、焼きたて、炊きたて)の要素が大事だと思いまして。それがそのままコンセプトとなり、今のお店づくりに活かされています。

────自分たちが提供したいサービスをはじめに突き詰めて考えたからこそ、お店づくりの方向性がぶれることもなく、できたてを提供するための設備や素材選びが自ずと見えてきたんですね。

「できたての美味しさを提供する」ことを軸足に、何ができるのか考える

(撮影:常住 祐輝/編集:Huuuu

後編に続きます

万人に喜んでもらえるよう「体験型」の店舗設計に

高橋まりな(ふつかよいのタカハッピー)

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高橋まりな(ふつかよいのタカハッピー)

三度の飯より酒が好きなフリーライター。合言葉は「約束はいらない、酒場で会おう」。