JANAI COFFEEが作り出す「ここに来ないと体験できない」価値

これからの飲食店に必要なノウハウや考え方を、お店のみなさまへインタビューする連載「愛される店のカラクリ」。 お店ならではの”個性”が生まれた理由、大切にしている考え方を伺いながら、愛される飲食店の作り方をひもときます。

記念すべき第1段としてご紹介させていただくのは、コーヒー屋のふりをした「バー」として大きな話題を集めるあのお店。4回にわたってじっくりお届けします。

お店に足を運ばないと体験できない価値をつくる

人が集まる飲食店と聞いたとき、どんなお店が思い浮かぶでしょうか。 料理が美味しいお店、外観や内観がオシャレなお店、地域に根付いた常連を大事にするお店、有名人御用達のお店などなど。

このように、「人気の飲食店」と一括りにしてもさまざまな要素から成り立っていることが分かりますが、最近では“体験”に価値を置いた飲食店が注目を集めるようになりました。

その一つが、今年8月に恵比寿にてオープンした『JANAI COFFEE』です。

一見すると何の変哲もないコーヒースタンドですが、ここは秘密の空間への入り口でもあります。実はJANAI COFFEEは、コーヒー屋のふりをした「バー」。ある秘密を知っている人だけがこの先の空間へ進むことができます。

不思議なお店づくりを実現したのは、ある3つの考え方でした。

人に話したくなる体験を生む、JANAI COFFEEの作り方

POINT1:スマホ1つで完結させるギミック
POINT2:お客さまを巻き込む共犯意識
POINT3:全スタッフがプランナー

それでは実際に、お店の奥へと進んでみましょう。

公式サイトの謎を解けないと入店できない不思議なお店

JANAI COFFEEの入店条件は、”ある秘密を知っていること”のみ。その秘密を知らなければ、いくら奥にバーがあると知っていても、決して入店することはできません。

秘密を共有する者だけが入店できる、隠された店。これは、禁酒法時代のアメリカで実際に存在した「スピークイージー」という文化から着想されました。当時は、表向きに別のお店を装いながら、お酒の密売をしていたそうです。

『JANAI COFFEE』の公式サイト上で、ある条件を満たすことで表れる“あるページ”。

そのページを店員に見せることが、入店の条件です。

そして、開かれる隠し扉とその奥に広がるバー空間。

その空間に足を踏み入れた瞬間には、日常生活ではあまり味わえない不思議な高揚感があります。

「コーヒー屋のふりをしたバー」という、思わず人に話したくなってしまうお店『JANAI COFFEE』。好奇心をくすぐるユーザー体験の作り方、口コミから広がり、ついにはTwitterを中心に大きな話題を生み出すまでに至った店づくりの裏側を伺うことで、飲食店の“体験価値”について考えていきます。

「コンセプトを面白がってくれる人」だけがいるポジティブな空間

──どういった経緯からJANAI COFFEEは生まれたのでしょうか?

手前から、プロジェクト管理を主に担当する大槻さん、バリスタやバーテンダーも兼任する吉田さん

大槻
実はJANAI COFFEEは、もともと僕の友人に依頼されて手伝っていたお店でして。今のJANAI COFFEEを共同で経営している3人は、その店づくりの手伝いをしていた時のメンバーです。

吉田
僕がコーヒーのコンサルティングやディレクション、大槻さんがPRやプロジェクトの管理、明円さん(取材時不在)がクリエイティブと、それぞれの得意分野で店づくりに関わっていました。"スピークイージー"というコンセプトや謎解きの仕組みは、そのときに明円さんが考えたものです。

大槻
お店自体は、オープンしてすぐに東京で緊急事態宣言が発令されてしまい、たった1日しか営業せず閉店してしまって。

その後、僕ら3人がお店を譲り受けることになって、「せっかくやるなら、より自分たちが面白いと思える形に作り替えよう」と、お店のリブランディングをしたんです。

──なるほど。もともとはプロジェクトとして、前オーナーさんの意向に合わせて作ったお店だったんですね。『カフェの裏側に秘密のバーがある』というスピークイージーのシステムを続けたのはなぜですか?

大槻
JANAI COFFEEは、自分たちと近しい価値観を持った人や、クリエイティブ、マーケティング職の20代、30代の人が出会い、繋がったり、そこからアイデアが生まれたりする場所であってほしいという想いがあったんです。

だからこそ、こちらが「こういう人に来て欲しい」とフィルタリングをかけるのではなく、「僕らが考えたコンセプトや仕組みに共感してくれた人たち」が自然と集まってくる空間にしたいという狙いがありました。

吉田
会員制や紹介制というやり方も考えましたが、それだとクローズドな空間になってしまうので。謎を解いた人だけが入店できるという仕組みが、クローズドすぎず、オープンすぎないギリギリのラインで上手く機能しているんです。

──そして完成したのが今のJANAI COFFEEなんですね。

第2回につづきます

「共感してくれたお客様」を自然と集めるアイデア by JANAI COFFEE

写真:藤原 慶 編集:Huuuu

早川大輝

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早川大輝

フリーランスの編集者・ライター。インタビューやエッセイの編集、執筆をしています。日常的にメモを残すのが癖で、エンタメや食べ物に関することを淡々と記録することが好きです。