代々木公園のストリートバー nephewで働くKeimiさん「独立を目指してカフェ営業中」

いつもおいしいあの店の料理やお酒。お店の看板となる店員さんがいることで、さらにおいしくなるような気がする。そんな名物店員さんにお店を紹介してもらう、気になるお店のあの人インタビュー「こちらのお席どうぞ」。

今回訪ねたのは東京は池尻にある、ストリートバー『LOBBY(ロビー)』。ホテルのロビーのように「色々な人が介在し、肩肘張らず、思い思いの使い方ができる場所」を目指した空間には地元民だけではなく、ストリートやファッションに精通した人々が集います。

そんな『LOBBY』を運営するand Supplyが、2021年4月21日に新店舗『nephew(ネフュー)』を代々木公園エリアにオープン。これまで『LOBBY』にて週末昼限定で開かれていた「CHECK IN LOBBY」も新店『nephew』に場を移しますが、そこでday time営業の中心としてお店に立つのがスタッフのKeimiさん。「CHECK IN LOBBY」の立ち上げから携わるKeimiさんには、ある思いがありました。

今回は『LOBBY』にて、Keimiさんに取材を敢行。「こちらのお席どうぞ」と席を案内してくれました。

LOBBY、nephewではたらくKeimiさん

<Keimiさんプロフィール>
日本生まれ日本育ちの華僑として、小学校から高校までインターナショナルスクールに通い、さまざまな国籍の人たちに囲まれ育つ。法政大学卒業後は、ウェディングプランナーを経験したのち、『STREAMER COFFEE COMPANY』にてバリスタを3年務める。その後趣味だったスポーツ(ランニング)と大好きなコーヒーを掛け合わせた仕事を志し、スポーツブランドのアパレルショップ『NEUTRALWORKS.(ニュートラルワークス)』にて販売/VMDとして勤務。2020年10月より金曜日と土曜日の日中限定で『LOBBY』の昼カフェ営業「CHECK IN LOBBY」の活動もスタートさせる。2021年4月から自家製焼き菓子やコーヒーを『nephew』で提供する。
Instagram(@keim1k)

ホテルのロビーのようにさまざまな人やモノが介在するストリートバー『LOBBY』

LOBBYではたらくKeimiさん

「こちらのお席どうぞ」と案内されたのは、入り口からほど近い木目のカウンター席。

『LOBBY』店内にはカウンター席のほか、壁沿いに設置されたベンチ席、奥には個室にもなるテーブル席があり、用途に応じて店内のレイアウトを変更しているそう。

日中は一面の窓から差し込む気持ちいい日差しを感じながらコーヒーや軽食を味わえ、夜になると心地よいライティングの中、カジュアルに本格的なお酒を味わえるという、二毛作的な営業を行う『LOBBY』。壁画など店内のアートワークは『LOBBY』チームの別の顔である壁画ユニット「RELISH」が手掛けています。

LOBBYの壁を彩るアートワーク

また、通常の飲食店営業のみならず、定期的にイベントも開催されています。営業時間外は撮影用にスペースレンタルとして外部へスペースを提供する試みも行うほか、オリジナルグッズの販売を行うECショップも運営。トレンドを見据えた独自の方針のもと、既存の“飲食店”の定義にとらわれない多種多様な事業が展開されています。

LOBBYのオリジナルグッズ

店内にはオリジナルTシャツやソックス、ファブリックや雑貨もディスプレイ。これらのアイテムがギャラリーのような洗練された空間を彩っています。

ちなみに、お店の業態として「ストリートバー」という表現が使われていますが、これは『LOBBY』独自の造語。「本格的なお酒を、もっとカジュアルに楽しんでほしい」という思いを込めたそうです。ことばひとつとっても、このお店ならではのストーリーを感じさせてくれます。

ひとりで過ごす時も人と語らう時も、幸せはいつもコーヒー屋さんにあった

LOBBYにてコーヒーを振舞うKeimiさん

そんな『LOBBY』にて、金曜日と土曜日の日中昼限定で開かれる「CHECK IN LOBBY」で自家製焼き菓子やコーヒーを提供していたのがKeimiさん。「CHECK IN LOBBY」は2月を持って終了し、4月からは新店『nephew』にてday time営業として再開されます。今でこそ好きなことを仕事にできているKeimiさんですが、この働き方にたどり着くまでには紆余曲折があったと言います。

「人の幸せに携わる仕事がしたいと思い、大学卒業後はウェディングプランナーとして働き始めました。ですが、いざ働き出すと、終電で帰宅して翌朝目を覚ましたら6時には家を出るという忙しない時間が続いてしまって。目指した方向性である仕事につけたことはもちろんありがたく、充実していたとは思うのですが、ふと自分の気持ちに目を向けたとき、「人の幸せの前に、自分を幸せにできていないのではないか?」という思いに気づいたんです」。

考え抜いた結果、退職を決意。その後、自分の好きなことを見つめ直していくうちたどり着いたのが、バリスタの仕事でした。

「ひとりでゆったり過ごす時も、友達や恋人とコミュニケーションを取る時も、幸せな時間を過ごすのはいつもコーヒー屋さんだということに気づいて。自分の大好きな場所で、今度こそ人の幸せに携わる仕事がしたいと思い『STREAMER COFFEE COMPANY』で働き始めました」。

コーヒーを淹れるKeimiさんの手元

約3年ほど経験を積んだのち、コーヒースタンド併設のアパレルショップ『NEUTRALWORKS.』にて、アパレル販売 兼 VMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)へ転身。「コーヒーにくわえ、私のライフワークでもあるランニングへの関心も活かせると思ったんです」。

自分が好きなもの、自分が作ったもので人を幸せにしていきたい

笑顔のKeimiさん@LOBBY

そんな彼女に転機が訪れたのは2020年春。

「自分が作ったものをお客さんに直接渡して喜んでもらう、という体験が忘れられなくて。小さい頃からお母さんと一緒に作っていたお菓子も頭に浮かべたり……。そんな気持ちを自分なりに整理した結果、『自分が思い描くコーヒーと焼き菓子を多くの人に提供したい」という考えに至ったんです」。

Keimiさんが実現したい夢が明確になったときに相談した相手、それが今回取材を受け入れてくださった『LOBBY』のオーナー井澤卓さんでした。

偶然、少し前からKeimiさんが同店にお客さんとして通っていたことがきっかけとなったと言います。

「コーヒー屋で一緒だった子が『LOBBY』で働き出したのをきっかけに、お店に行くようになりました。スタッフの皆さんがとても良くしてくれて、徐々に一人でもよく通うようになって。当時の 『LOBBY』は夜だけの営業だったんですが、あるとき、思い切って昼の時間に間借りできないかと、企画書を作って直接オーナーに相談しました。決してクオリティが高い企画書ではなかったと思うのですが、やる気を買ってくれて『LOBBY』の一員としてカフェ営業をさせてもらえるようになりました」。

コーヒーを淹れるKeimiさん

スタートにあたっては、『LOBBY』スタッフたちのサポートを受けながら、コンセプトやメニュー展開を一緒にブラッシュアップしたり、メニューやSNS用のビジュアルを作成して情報発信を行なったと言います。

「『LOBBY』の人たちが応援してくれたおかげでここまでやってこられたので、感謝の気持ちでいっぱいです」と話すKeimiさんは、今では『LOBBY』、そして新店『nephew』の一員としてお店を大きくしていきたい気持ちが強くなっているのだそう。

当初は個人の夢を叶えるための場を“提供してもらった”側でしたが、実際に経営と近い業務に携わることで“店舗自体のこれから”に視点が向くようになったのかもしれません。

お昼は焼き菓子とコーヒー、夜はクラフトカクテルを提供する『LOBBY』

KeimiさんがつくるLOBBYのカフェメニュー。キャロットケーキにクッキー

Keimiさんが担当していた「CHECK IN LOBBY」では、コーヒーの注文があるごとに都度豆を挽き、ドリップして提供していました。カウンターにはキャロットケーキやマフィン、クッキーなど、Keimiさんお手製の焼き菓子の数々をディスプレイ。「焼き菓子はコーヒーとの相性を考慮して、あえてやや甘めに仕上げています。中でも人気なのは、私も大好物のキャロットケーキ。ニンジンが苦手な方も『これは食べられる!』と召し上がっていただけました」。

1ホールあたりニンジン2本分をたっぷり使用したキャロットケーキは自然な甘さがありつつも、シナモンやナツメグなどのスパイスがアクセントとなった大人なテイスト。トッピングされたクリームチーズの酸味と濃厚でクリーミーな味わいが、ケーキ全体としてのまとまりを感じさせてくれます。

また、こだわりのコーヒーに採用されている豆は、実は『LOBBY』で同じくバリスタとして活躍する同僚が季節に合わせて選び、焙煎したもの。「コーヒー豆は室温や天気によって味が変わるので、豆の挽き方も毎日変えています」。

現在『LOBBY』は19:00からバーのみで営業。バーの名物メニューは目黒の名店バー『BAR 014』監修のクラフトカクテルです。アルコールにフルーツやハーブを漬け込みオリジナリティあふれるラインナップを取り揃えつつも、ハイサワーやバイスを合わせるなど、飲みやすさにも配慮。ストリートバーという業態に込められた「本格的なお酒を、もっとカジュアルに楽しんで」もらえるよう絶妙なバランスが計算されています。

左から「エルダーフラワーとピンクグレープフルーツ」「バイオレットレモンサワー」
左から「エルダーフラワーとピンクグレープフルーツ」「バイオレットレモンサワー」

取材時にお出しいただいたのは、バタフライピーとレモングラス、仕上げにすみれのリキュールをスプレーで吹きかけた「バイオレットレモンサワー」と、甘みと酸味のバランスが良くローズマリーとビターズが決め手となっている「エルダーフラワーとピンクグレープフルーツ」。ついつい写真に収めてしまいたくなる美しいビジュアルも魅力です。写真でお伝えできないのが残念ですが、驚くほどに香り高いのも印象的でした。ぜひお店に足を運んで実際に体験してみてください。

飲食業での経験ををもう一方の仕事にも生かせるのは魅力

LOBBY入り口に座るKeimiさん

アパレルショップで働きながら、店頭に立っていたKeimiさん。新店の業務に集中するために4月にアパレル企業を退社しました。アパレル企業に勤めていたときは、勤務時間以外も食材の調達や仕込み、新商品のリサーチ……とかなり精力的に活動していた彼女。両立が大変そうにも思えますが、仕事を掛け持ちするからこその魅力もあったと言います。

「『LOBBY』自体、作り手の気持ちをお客さんに伝えることを大切にしていて。私自身も自分がどういう気落ちでお菓子やコーヒーを作っているのかを大切にしながら、お客さんに身近に感じてもらえるような接客を心がけています。そういった接客がアパレルの仕事の方にもいい意味で響いていて、手応えを感じるようになりました」。

さらにもうひとつ『LOBBY』を運営するand Supplyで働く魅力として、いろいろな人々と出会えることを挙げてくれました。

「and Supplyはクリエイティブプロダクションで、社員の他に、LOBBYのスタッフも俳優志望やペインター、百貨店勤務など複業をしている人が多くバラエティに富んでいます。お客さんもデザイナーやイラストレーター、Web系のディレクターなどスーツを着てお仕事をされるというよりは、私服でお仕事をされているクリエイティブ系の方が多い印象ですね。「CHECK IN LOBBY」のお客様で言うと、お菓子を楽しみに来てくださる女性グループやカップル、リモートワークの場として利用されている方、職場が近所で休憩がてらいらっしゃる方などさまざまいました」。

アパレルショップで働く時とはひと味違う出会いが、彼女の生活を彩っています。そして、興味深いのが来店動機が多種多様という点。まさに「さまざまな人やモノが介在する」ことで何通りもの“『LOBBY』の楽しみ方”が生まれているのでしょう。訪れるたびに新しい発見がありそうです。

おいしい料理やドリンクだけではない引力がここにはある

LOBBY時代のKeimiさん

自身のお菓子屋さん出店を目標としている中で、『LOBBY』では飲食店経営に必要なノウハウも学べていると言います。「オーナーはGoogle出身のビジネスパーソンなんです。当初私が作成した事業計画を見せたときも、めちゃくちゃ指摘が入りました(笑)。正直、ここで働くまではコーヒーを作ってお客さんに提供することばかり意識していましたが、今は人件費や原価計算、食材ロスを作らないための工夫など、飲食店経営に必要な知識はまだまだあると実感しています」。

4月にオープンする『nephew』で目指したいことを聞くと「個人的には子供連れのご家族からおじいちゃんおばあちゃんまで、世代に限らず『nephew』で過ごす時間が誰かの活力になる場所になればいいなと思っています。そこに少しでも貢献できたら」と笑顔を見せてくれました。

取材時もほっとした表情で訪れるお客さんと、にこやかに会話しながら一杯一杯丁寧にコーヒーを淹れていたKeimiさん。コーヒーや焼き菓子はもちろんおいしいけれど、そのようすを見ていて感じたのは、このお店を訪ねる理由はきっとそれだけではないということ。心地よい空間でひとり時間を過ごしたい時、誰かと語らいたい時、インスピレーションが欲しい時、フラッと立ち寄ってしまいたくなる、そんな不思議な引力がここ『LOBBY』にはありました。新店『nephew』での新たな展開にも期待が膨らみます。

LOBBY(ロビー)

〒153-0043 東京目黒区東山3-6-15 1F

19:00-25:00 (24:30L.O)日曜定休

03-6457-5250

※緊急事態宣言時の営業スタイルのため定休日含め変更の可能性あり

nephew(ネフュー)

〒151-0063 東京都渋谷区富ヶ谷1-7-2

10:00-18:00 / 19:00-25:00(24:30L.O)月火定休

03-5738-8908

(ライター/中森りほ カメラ・編集/高山諒+ヒャクマンボルト)

「こちらのお席どうぞ」連載一覧はこちら

いつもおいしいあの店の料理やお酒。お店の看板となる店員さんがいることで、さらにおいしくなるような気がする。
そんな名物店員さんにお店を紹介してもらう、気になるお店のあの人インタビュー連載です。