飲食店の節税どうする?コロナで売上が下がったお店は猶予制度も活用しよう

飲食業の節税とは?

節税とは、法律の範囲内で、支払うべき税金をおさえることを指します。

そのためには控除や非課税制度を用いますが、それぞれの仕組みを知らずにいると、自ら申請しなければ適用されないものや、予算の振り分け方を誤って大きく損をしてしまいます。 節税と聞いて多くの方が連想するものに所得税がありますが、どのような構造で計算されているか把握できているでしょうか。あらためて見ていきましょう。

前回の記事はこちら

飲食店の確定申告、抑えるべきポイント〜経費の対象と手順〜

所得税とは、その名のとおり所得に対してかかる税金ですが、所得すべてが対象になるわけではありません。まず所得の全額から「経費」と「所得控除」を差し引いた金額に税率をかけたものを算出します。このときかける税率は、所得により異なります(累進税率)。そして、割り出した金額から「税額控除」を差し引いた金額を所得税額として納付します。

所得額に累進税率、所得控除、税額控除それぞれを適用

ここまでに出てきた「経費」にあたる対象はなにか、そして「所得控除」「税額控除」それぞれをしっかり把握して、納める必要のない分をできるだけ差し引けば、結果として節税となります。

ここからは、まず注意点を確認した上で、それぞれについて解説していきます。

節税はやりすぎ注意

いくら節税をしたいと言ってもやりすぎは禁物。なぜなら、節税をしすぎることで社会的な信用が下がってしまう可能性があるためです。

例えば、節税のために所得を低くしすぎると、銀行などからの融資を受けられません。お金の貸出をする金融機関では、融資を受けたいという人の申告を見ながら、きちんと返済できるかを判断します。もしあまりに所得が少ないと「この所得で返済は厳しいのでは?」と思われてしまうのです。同様の理由で、物件の入居審査も通過しない可能性があります。

加えて、休業補償の保険金が少なくなることもデメリットです。休業補償は、怪我や病気でお店を休まざるを得なくなった際に、所得を保障してくれるものです。もらえる保険金は所得金額をベースとしているため、所得を少なくするとそれだけ保険金が少なくなってしまいます。

節税にはこうしたデメリットも存在するため、節税を行う際にはバランスを見ながら賢く行うことが大切です。

節税は法的に決められた範囲内で!

この範囲を逸脱すると、節税ではなく脱税となり、悪質な場合は罰則が科せられることもあります。あくまで、合法的な方法で行うようにしましょう。

どんな節税対策がある?

ではここからは実際の節税対策についてご紹介します。節税には「資金も利益も減らさない節税」「資金は減らないが利益が減る節税」「資金も減り、利益も減る節税」の3つがあります。どの方法で節税するかは、税金のプロである税理士と相談しながら決めましょう。

1.資金も利益も減らさない節税

資金も利益も減らさない節税には「所得控除」「税額控除」があてはまります。

先ほどの図のとおり、所得控除が所得から一定の額を控除するのに対し、税額控除は算出した所得税額から一定の金額を差し引きます。

「所得控除」は、国民年金や健康保険などの支払いを控除できる「社会保険料控除」や、生命保険に加入している場合に保険料を控除できる「生命保険料控除」などがあります。一覧は以下のとおりです。

種類 概要
基礎控除 納税者本人の合計所得金額に応じて差し引ける控除
雑損控除 災害や盗難などで資産に損害を受けたときの控除
医療費控除 その年に支払った医療費が一定額を超える場合に受けられる控除
社会保険料控除 納税者本人または配偶者やその他の親族の社会保険料を支払った場合に受けられる控除
小規模企業共済等掛金控除 共済契約の掛金等を支払った場合に受けられる控除
生命保険料控除 生命保険料、介護医療保険料および個人年金保険料を支払った場合に受けられる控除
地震保険料控除 損害保険契約等にかかる地震等損害部分の保険料または掛金を支払った場合に受けられる控除
寄附金控除 国や地方公共団体、特定公益増進法人などに「特定寄附金」を納めた場合に受けられる控除。ふるさと納税も含まれる
障害者控除 納税者本人、同一生計配偶者または扶養親族が所得税法上の障害者に当てはまる場合に受けられる控除
ひとり親控除 ひとり親であり、子の総所得金額等が48万円以下、かつ合計所得金額が500万円以下の場合に受けられる控除
寡婦控除 寡婦である人が受けられる控除
寡夫控除 寡夫である人が受けられる控除
勤労学生控除 勤労学生である人が受けられる控除
配偶者控除 納税者に控除対象配偶者がいる場合に受けられる控除
配偶者特別控除 配偶者に48万円を超える所得があるため配偶者控除の適用が受けられないとき、配偶者の所得金額に応じて受けられる控除
扶養控除 納税者に控除対象扶養親族となる人がいる場合に受けられる控除

税額控除は、認定NPO法人への寄付や、住宅を取得したときなどに所得税額から直接マイナスできます。

控除してから税率をかける所得控除と異なり直接一定の金額を差し引けるため、より高い節税効果を出せる場合が多いです。一覧は以下のとおりです。

種類 概要
配当控除 配当所得がある場合に、その金額の10%または5%に相当する金額を控除できる
外国税額控除 日本で課税される所得の中に外国で生じた所得があり、その所得に対してその外国の法令により所得税に相当する税金が課税されている場合に、一定額を控除できる
政党等寄附金特別控除 政治活動に関する一定の寄附金を支払った場合、一定額を控除できる(寄附金控除の適用を受ける場合を除く)
認定NPO法人等寄附金特別控除 認定NPO法人等に対して一定の寄附金を支払った場合、一定額を控除できる(寄附金控除の適用を受ける場合を除く)
公益社団法人等寄附金特別控除 公益社団法人等に対して一定の寄附金を支払った場合、一定額を控除できる(寄附金控除の適用を受ける場合を除く)
(特定増改築等)住宅借入金等特別控除 一定の要件を満たす住宅の新築、取得または増改築等をした場合に受けられる控除
住宅耐震改修特別控除 納税者が居住する家屋の住宅耐震改修をした場合に受けられる控除
認定住宅新築等特別税額控除 認定長期優良住宅、認定低炭素住宅といった対象となる住宅を取得した場合に受けられる控除
試験研究を行った場合の所得税額の特別控除 青色申告者が、試験研究を行った場合に受けられる控除
高度省エネルギー増進設備等を取得した場合の所得税額の特別控除 青色申告者が、新品の高度省エネルギー増進設備等の取得等をし、一定の事業に役立てた場合に受けられる控除
中小事業者が機械等を取得した場合の所得税額の特別控除 青色申告者である中小事業者が、新品の特定機械装置等の取得等をし、一定の事業に役立てた場合に受けられる控除
地域経済けん引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の所得税の特別控除 地域経済牽引事業者である青色事業者が、一定の地域内において承認地域経済牽引事業計画に従った特定地域経済牽引事業施設等の新設又は増設をした際に受けられる控除
地方活力向上地域等において特定建物等を取得した場合の所得税の特別控除 青色申告者が、「地方活力向上地域等特定業務施設整備計画」について認定都道府県知事から承認を受けて、建物等を取得した場合に受けられる控除
地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の所得税額の特別控除 青色申告者で、地方活力向上地域特定業務施設整備計画の認定を受けた地域再生法に定める認定事業者が一定の要件を満たす場合に受けられる控除
特定中小事業者が経営改善設備を取得した場合の所得税額の特別控除 青色申告者である中小企業者が、経営改善設備の取得等をした際に受けられる控除
特定中小事業者が特定経営力向上設備等を取得した場合の所得税額の特別控除 青色申告者である一定の中小事業者が、特定経営力向上設備等を取得等した際に受けられる控除
給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の所得税額の特別控除 青色申告者が支給する給与の金額が一定額以上増加したなど一定の条件を満たす場合に受けられる控除
認定特定高度情報通信技術活用設備を取得した場合の所得税額の特別控除 認定された青色事業者が、認定特定高度情報通信技術活用設備を取得等した際に受けられる控除
革新的情報産業活用設備を取得した場合の所得税額の特別控除 認定された青色事業者が、一定規模以上の革新的情報産業活用設備を取得等した際に受けられる控除
所得税額から控除される特別控除の特例 これまでに挙げた特別控除のうち対象となるものから2つ以上適用するときに、一定相当額を超えた場合に翌年以降に繰越控除できる

いずれも自ら申請しなければ適用されないものが大半です。各種証明書、登記簿謄本など、控除の種類によって必要な書類も異なりますので、時間に余裕を持って準備しなければなりません。くわしくは国税庁の公式Webサイトを確認してください。

2.資金は減らないが利益が減る節税

資金は減らないが利益が減る節税とは、経費による節税のことです。事業で使っているのに、経費として計上していないものがあれば、きちんと事業費として計上します。

例えば、農家や卸売業者に食材を取りに行く際に、自家用車を使って取りに行くとします。この場合、仕事として車を使っているのでこの分の燃料費は経費に含められます。他にもプライベートと仕事で同じ携帯を使っているという場合には、仕事で使った分は経費に計上することが可能。このようにプライベートと事業で共用しているものは、プライベートと事業の割合を設定し、事業分を経費に含めることができます。

また、仕入先や常連さんなどと親睦を深める場合の飲食は「接待交際費」、メニュー研究のための食べ歩きは「研究費」、技術習得のためのセミナー費用などは「研修費」として計上できます。このような事業に関連する費用の計上漏れがないか洗い出してみましょう。

くわえて、減価償却の処理方法を見直すことも有効な節税の手段です。

減価償却には、定率法と定額法があり、定率法は決められた耐用年数に対して一定の「割合」で償却を行う方法をいいます。対して定額法は、一定の「金額」で償却を行う方法です。定率法の場合、初年の割合が多く、年を経るごとに徐々に割合が少なくなっていくため、早めの経費化が可能です。

基本的に減価償却は定率法で行うと定められていますが、場合によっては定額法の方がメリットが出るケースもあります。定額法を使う際には届け出が必要なため、税理士に相談してみましょう。

3.資金も減り利益も減る節税

資金も減り利益も減る節税とは、より積極的に材料を購入したり交際費を使うなどして経費として計上できる対象の支出を増やす方法が考えられます。お金を使って経費にすることで所得は減りますが、その分、節税となる可能性があります。

ただし、お金の使い過ぎには注意しましょう。使って所得を少なくすれば、確かに税率は低くなりますが、手元に残る資金も少なくなります。

例えば、100万円の所得があったとき、経費や控除を計算した結果の税額が20万円とすると、手元には80万円が残ります。一方、100万円をすべて使い切れば税率は0%ですが、手元にはお金が残りません。

どんなに節税をしたくても、手元にはきちんと資金を残しておかないと経営自体が成り立たなくなります。交際費で100万円使ったとして、その対象経費を回収できるほどの利益につながる費用なのかかどうか、賢く考えなければいけません。

コロナで税金の支払い厳しい場合は?

新型コロナウイルスの影響でお店を休業したり、時短営業をしたりしているお店は多いのではないでしょうか。しかし売上が下がった分、税金の支払いが厳しくなったという人もいるでしょう。

そういった場合には、国税の猶予制度を利用しましょう。国税の猶予制度とは、税金の支払いが難しいことを所轄の税務署に申請することで、納税期限を1年間延ばしてもらえるものです。

令和2年4月に成立・施工した新型コロナ税特法により、新型コロナウイルスの影響がある飲食店でも、納税期限を延長できることになりました。延長の条件は、以下の2つです。

①事業収入が前年同時期と比べて20%以上減少している
②税金を一括で納めることが困難

上記の条件を満たしていて、所轄の税務署に申請を行うと、納税の猶予が認められます。また担保等も必要なく、延滞税もかかりません。 もし新型コロナウイルスの影響で納税が厳しい場合には、利用を検討してみましょう。

申請できるその他の補助金はこちら

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まとめ

節税をして余計な税金を払わないようにできれば、利益も上がってお店の経営も良くなります。事業に関連したものをしっかりと経費にする、利用できる控除や制度を利用するなどして、賢く節税を行いましょう。

今回はここまで。

次回は飲食店経営にもデジタル化の波が到来!ITを活用して業務を効率化しようをご紹介します。

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written by

FOOD-IN編集部

FOOD-IN編集部ライターが未来の飲食店をつくるための経営ノウハウをどのメディアより”分かりやすく”をモットーにお届けします。