fuzkueが生んだ、「長居を歓迎する」どこにもない料金設計 前編

これからの飲食店に必要なノウハウや考え方を、お店のみなさまへインタビューする連載「愛される店のカラクリ」。お店ならではの”個性”が生まれた理由、大切にしている考え方を伺いながら、愛される飲食店の作り方を紐解きます。

第2弾としてご紹介するのは「本の読める店」として読書家達から親しまれているあのお店。その魅力と考え方について、3回にわたってじっくりお届けします。

読書に最適化されたお店『fuzkue(フヅクエ)』

「快適に読書ができると約束された空間」。そう聞いて、あなたはどんな空間を思い浮かべますか?図書館?喫茶店?いいえ、そのどれにも当てはまらない、新しい場所があるんです。

『本の読める店 fuzkue』店舗扉のロゴ

初台と下北沢に店舗を構える『fuzkue』は、楽しい読書の時間を全力で応援してくれるお店。

『本の読める店 fuzkue』の店舗入り口に掲げられたコンセプト

店主の阿久津隆さん(以下 阿久津さん)は、お客さんが「店内で快適に読書をする時間」を守るべく、どこにもない料金設計を考えました。それは、喫茶店業態としては珍しい“長居しやすい”料金設計だったのです。

『本の読める店 fuzkue』の店内にはあらゆるジャンルの本が並ぶ

加えて、お客さんの体験価値を守るfuzkueならではの工夫やアイデアは、常に刷新し続けられています。

今回は、そんなお店をつくった阿久津さんにお話を聞いていきましょう。

『本の読める店 fuzkue』店主 阿久津さんのプロフィール写真

<プロフィール>
阿久津隆さん
『本の読める店 fuzkue』店主。岡山県でのカフェ開業を経て、お客様へ最高の読書環境を提供するお店として、2014年に「fuzkue」を開店。2020年には、下北沢の施設『BONUS TRACK』内に2店舗目を開業し、読書家たちを幸せにする店づくりに取り組んでいる。

fuzkueのカラクリ

Point 1:
お店が「幸せにしたい人」は誰か考え、料金設計をつくる(本記事)

Point 2:
ルールを言語化して、お客さんに「歓迎」の意思を伝える

Point 3:
新しい客層との出会いは、お店を変革できるチャンスである

すべての「ゆっくり読書がしたい人」を幸せにする料金設計

──『本の読める店 fuzkue』の名前の通り、見渡す限りずらりと本が並んでいて、読書好きにとっては夢のような空間ですね...。このお店を始めたキッカケは何だったのでしょう?

街には「1人で読書をして過ごすことを本当に歓迎してくれる場所」がどこにもないと感じていたからです。僕自身、家以外の場所で本を読むのが大好きで、ゆっくり読書をする時間を過ごしたくて色々な場所に訪れていたのですが、どこに行っても何かが欠けていたんですよね。

たとえば「そろそろ追加のオーダーをしておいたほうがいいかな…?」と気を遣ってしまったり...。

──その点、fuzkueの料金設計は、お店もお客様も気を遣わずに過ごせる仕組みになっていますよね。

はい、大まかに言えば、『席料が変動することで、どのお客さんにも大体2000円くらいの支払いをしてもらう』という料金設計ですね。

現在は
「①ゆっくりゆっくり本を読んで過ごす制度」
「②約1時間、ぎゅぎゅっと本を読んで過ごす制度」
の2パターンの料金設計をとっています。

『本の読める店 fuzkue』の料金システム「ゆっくりゆっくり本を読んで過ごす制度」

①はオーダーの数や種類によって席料が変わる仕組みです。1〜4時間程度過ごされる場合、2000円前後に収まるよう設定しています。

──なるほど!たとえば、カフェオレ1杯のみオーダーすると席料が900円かかるけれど、カフェオレ1杯+ケーキを頼んだ場合の席料は600円になる...という風に、オーダーに応じて席料が変わっていく仕組みなんですね。

その通りです。そして、4時間以上過ごされる場合は席料が新たに600円追加となりますが、こちらもフードやドリンクをオーダーいただくことで席料も減っていきます。

──このシステムなら、長居した分のお金はきちんとお店に支払えるし、追加オーダーのタイミングを考えて気持ちが焦ることなく、ゆっくりしようと思えますね。

長らくこの仕組みだけだったのですが、「1時間だけ集中して読書がしたい」というお客さんに向けた料金プラン②も昨年に導入しました。こちらでは、コーヒーを1杯注文すれば席料は300円、コーヒーとケーキを注文すれば席料無料など、短い時間でも使いやすいような料金設定にしました。

──このような料金設計を思いついたのはなぜですか?

『本の読める店 fuzkue』について語る店主の阿久津隆さん

fuzkueが幸せにしたいのは誰かと考えたとき、それは「ゆっくり読書がしたい人」だったんです。

お客さんにゆっくりしてもらうためには、店側にとっては「長居されても、売り上げが確保できるか」が、お客さんにとっては「本当に長居していいのか?と気兼ねする瞬間」がネックになると感じていました。だから「料金設計」に工夫をすることにしたんです。

当初、お一人一律2000円分はオーダーしていただくという料金設計も考えてみたのですが、「ゆっくり読書がしたい人」の中には「コーヒーを1杯だけ飲みたい」「ドリンクを飲み、デザートを食べたい」という人もいて。

──たしかに。読書中にコーヒーを飲みたいとか、甘いものを食べながら読書したいとか、楽しみ方は人それぞれですもんね。

fuzkueが幸せにしたいのは「ゆっくり読書がしたい人」なので。すべての飲食パターンのお客さんが常に同等の存在であり続けるべきだと思ったんですよね。

たとえばこれを「お酒のメニューの方が単価が取れるから、そちらに注力していこう」という考え方にすると、喫茶的に利用して読書がしたい人の居心地を悪くすることに繋がってしまう。

現在の料金設計は、すべての方から1500円の粗利益はいただくようになっています。これは平均滞在時間から割り出された、いただく必要のある粗利益額です。

料金設計があらかじめ明確になっているので、お客さんは自分が本当に頼みたい分だけ商品を注文し、時間を気にせず長居できるんです。すべてのバランスを崩さない形を考えた結果、このシステムになりました。

『本の読める店 fuzkue』のカラクリ1:お店が「幸せにしたい人」は誰か考え、料金設計をつくる

──すべてのお客さんを幸せにする素敵なアイデアですね。

中編に続きます

ルールを言語化して、お客さんに「歓迎」の意思を伝える

お店の世界観を言語化し、守ってゆく by fuzkue 中編

写真:辻 茂樹 編集:Huuuu

本の読める店 fuzkue

〒151-0061 東京都渋谷区初台1-38-10 二名ビル2F

12:00〜24:00(だいたい無休)

03-1234-5689

※営業時間が変更となる場合があります。最新の営業時間についてはお店HPをご確認ください

高橋まりな(ふつかよいのタカハッピー)

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高橋まりな(ふつかよいのタカハッピー)

三度の飯より酒が好きなフリーライター。合言葉は「約束はいらない、酒場で会おう」。