「実店舗でやりたいこと」を具体化させた間借り店 by サンラサー 後編

飲食店が店づくりを続けていくために、必ず考えることになる「お金」の問題。融資や補助金の話から、日々発生する「お店から出ていくお金」に到るまで、さまざまな飲食店の「お金に対する考え方」を聞いていく当連載。

第二回では、初期投資の少ない「間借り営業」スタイルで自身のカレー店をスタートさせた東新宿の人気カレー店『サンラサー』に取材。3回に渡って、「間借り店から店を始める」ことに至った経緯と現在の店舗経営に与えた影響について伝えていきます。

SANRASAのお金との向き合い方

Point 1:設備投資は10万円のみ。開業資金が抑えられる!
Point 2:"間借り店の営業"を通して、実店舗のファンを作る
Point 3:「本当にやりたい営業スタイル」を具体化させた間借り店(本記事)


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間借り店を卒業し、独立店舗開業へ

——間借り店からスタートした結果、ご自身だけの店舗として独立されることを決意した理由は何だったのでしょうか?

ありがたいことに、お客さんが増えてお店が手狭になってきたからです。間借り店時代は20食限定販売で、来客数と提供数に大きな差が出てしまったので、これ以上ここで耐えるのは無理かなと。

独立店舗として借りた場所も大きくはないですが、現在は間借り時代よりも10食多い、1日30食限定販売しています。

——実際に店舗を始めてみて、変わったことはありますか?

お店のレイアウトや置ける備品まで全部自分で決められるので、自由度が高くなりました。あと、物を置いて帰れるのが楽ですよ。間借り店時代は毎回米を持参していたので、キツかったですね(笑)。

——相当な重さですよね...! お客様の層に変化はあったのでしょうか?

某有名ゲーム会社で働く常連さんから贈られたイラストが、店内に飾られている。

いえ、あまり変わらず、間借り時代に支えてくれたお客さんが今も足を運んでくださっています。

「間借り店を卒業しようと思う」と伝えたら「うちの会社の近く以外には行かないでくださいね」と言ってくれたり、「じゃあ看板のイラストを描きますよ」とお手伝いしてくれたり...。常連さんには支えていただいています。

——そこまで常連さんが慕ってくださるのはすごいですね。

普通の飲食店だったら「美味しかった」「ごちそうさま」って言ってもらえたらラッキーみたいな感じですが、うちは間借り店時代からずっとお客さんとの距離が近いので、フィードバックをどんどんもらえるんです。

それによってより喜んでもらえるメニュー開発にもつながりますし、なにより励みになって頑張ろうって思えています。

私が作るカレーは、100人中100人に好んでもらえるとは正直思ってなくて。今一番「食べてほしい」と思う大事な人が「おいしい」と言ってもらえるようなイメージでメニューを考えています。みなさんが、友達や恋人、旦那さん、お子さんのためにつくるご飯に近いかもしれませんね。

——やはり「お客さんとの距離が近く、”顔が見える”関係性」を大切になさっているんですね。間借り店時代から続いてきた常連さん達との関係が、有澤さんのやりたいことをより具体的にしてきたようにお見受けします。

カレー以外に、すべて有澤さんお手製の「レモンアチャール」や「くるみレーズンマサラ」「アーモンドレーズンマサラ」などもレジ横で販売。自宅でカレーを食べるときのお供にぴったりです。

そうですね。間借りでの営業を通して、私のやりたいことが明確になったからこそ、店舗のサイズ感もふくめて自分に適した店舗を構えるという選択ができました。実際やってみた今も、やりたいことが叶っているので、良かったと思います。

SANRASAのお金との向き合い方3

——間借り店時代に気づいた、経営の大切な考え方などはありますか?

間借り営業でやりがちなのが、「設備投資や家賃にお金をあまり使わない分、いい材料を使える」という勘違いです。

一人かつ間借りで立ち上げたばかりのタイミングではやっていけるかもしれませんが、将来的にスタッフを増やしたり、あるいは独立する選択肢も考えているならば、同じことを続けられるとは限りません。そうならないよう、間借り店でもシビアに原価率と利益率を意識しておくことが大切なんです。

——短期的に見れば成り立つかもしれないことも、長く続けるためにはしっかり数字と向き合う必要があるんですね。

そうです。家賃や人件費の影響が少ないうちは、ざっくり計算で続けてしまえることもあるんですが、そこはきちっと経営状態とか利益率、原価率を分析しないといけませんし、なによりそういったことを継続することが必要です。

例えば、一ヶ月に一回くらい反省会をして、「あのメニューをやったら原価率がどうだった、利益率がどうだった」と振り返るなどですね。

——間借り店をはじめたばかりの人でも、それってできるものでしょうか?

考えるべきことに意識を向ける癖をつけたら、あとは調べるべきことが山ほどあることに気づくはずです。そのためにもまずは継続して意識し続けることが大事だと思いますよ。

——ありがとうございます。では今後、有澤さんが挑戦してきたいことはありますか?

催事の出店、企業とのコラボ、監修といった仕事も広げていきたいですが、常にこのお店が起点でありたいです。AKB劇場じゃないですけど、「会いにいけるサンラサー」みたいな(笑)。基本的にはこの場所が幹で、枝葉として他の事業があると思っています。

コロナ禍の影響でストップしていた『料理教室』は少人数制で再開したいと思っていて。あとは、6月には有料のレシピ動画の配信をはじめる予定なんです。(※)

——レシピ動画であれば、料理教室に来られない遠くの人でもみて学ぶことができますね!

やっぱり、間借り店をはじめる前に思い描いていた「料理教室」が、一番やりたいこととしてある。そこに繋げるために実店舗があって、オリジナル商品があって、他の仕事もある。やりたいことをやるために事業を展開してきたけれど、その第一歩目が間借り店だったんだと思います。

※料理教室の開催情報は、サンラサーのインスタグラムアカウントにて随時発信される予定。

まとめ

間借り営業からスタートし、その人気から実店舗を構えるに至った『SANRASA(サンラサー)』。その姿から、間借り店についての多くのことを学びました。

間借り営業は借り先とのルール徹底や、独学で経営や衛生観念を学ばなければならなかったりと、注意点をも考慮したうえで、開業を検討する必要があります。しかし一方で営業スタートする際の開業資金を低く抑えられることはもちろん、有澤さんのように、実店舗を持つ前から「常連さん」という味方をつくれる、実店舗を持った時にやりたいことを、間借り店で模索できるという良さもあります。

小さな間借り店から始めたからこそ、お客さんとの距離も縮まった有澤さん。「カレーの種類を1種類ではなく、2種類にしてほしい」「アチャールがあったら、絶対食べますよ!」なんて常連さんからの意見もできる限り取り入れ、メニューに反映してきました。

常連さんがそれだけフラットに意見を言ってくれるのも、有澤さんの人柄があってこそ。取材当日も、サービス精神たっぷりでシャッターチャンスをくださいました。

常連さんがそれだけフラットに意見を言ってくれるのも、有澤さんの人柄があってこそ。取材当日も、サービス精神たっぷりでシャッターチャンスをくださいました。

有澤さんは、「『いつか自分の店を持とう』と本気で考える人が、間借り店からはじめるのはひとつのいい選択」とも語ってくれました。家賃や設備投資といった金銭面での問題を小さく抑えることのできる間借り店は、「誰でも始めやすい便利な手法」だからこそ、目標や希望を持ち、そこに向かって真摯に取り組む気持ちを強く持つ人が活用すべきスタイルなのでしょう。

写真:藤原 慶 編集:Huuuu

SANRASA(サンラサー)

〒160-0022 東京都新宿区新宿6丁目27-17

11:00-15:00

非公開

※営業時間が変更となる場合があります。最新の営業時間についてはお店HPをご確認ください

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今回は3記事にわたり間借りから始まったカレー店『SANRASA(サンラサー)』をご紹介しました。

本連載では、飲食店が店づくりを続けていくために、必ず考えることになる「お金」の問題をピックアップ。融資や補助金の話から、日々発生する「お店から出ていくお金」に到るまで、さまざまな飲食店の「お金に対する考え方」を聞いていきます。

お店によって全く異なるさまざまな向き合い方に注目です。

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高橋まりな(ふつかよいのタカハッピー)

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高橋まりな(ふつかよいのタカハッピー)

三度の飯より酒が好きなフリーライター。合言葉は「約束はいらない、酒場で会おう」。