FOOD-IN編集部が注目の飲食店をピックアップ! 今回は昆虫食専門店『ANTCICADA(アントシカダ)』をご紹介します。"虫を美味しく食べる"レストランとして幅広い層から支持を集め続ける理由に迫ります。本記事は前編です。
昆虫料理の「美味しさ」を追求する
ここ数年、新しい食文化として注目を集めている「昆虫食」。環境問題やグローバルな食糧問題の観点からも、「昆虫を美味しく食べる」ことに多くの人々が可能性を感じています。
その一方で、「食材としてのイメージがない」「見た目が苦手」など、まだまだ敬遠してしまう人がいるのも事実。店によっては、昆虫の姿がくっきりと見てわかる状態の料理を「ゲテモノ」や「珍味」といったくくりで提供していることも。
そんななか、昆虫食を「珍しい食べ物」としてではなく、一つの「新しい味の可能性を秘めた食材」として扱い、「昆虫料理」というジャンルを追求している店があります。
それは、東京・日本橋馬喰町にある昆虫食専門店『ANTCICADA』。
旬の昆虫を贅沢に使った2時間のコース料理と、日曜日のみ提供される「コオロギラーメン」によって、昆虫食の魅力を届けているこのお店。
洗練された料理の見た目も、多くの人の興味を引きつけています。
2020年にオープンした『ANTCICADA』は、雑誌やメディアに取り上げられたちまち大人気に。そして、たくさんのリピーターを生んでいるそうなんです。
まだまだ一般的な食文化としては普及していない「昆虫食」が、ANTCICADAではなぜここまで受け入れられるのか? 店づくりの裏側にはどういった考えがあったのか? 代表である篠原祐太氏に、伺いました。
篠原 祐太(しのはら・ゆうた)
1994年地球生まれ。慶應大学卒。昆虫食レストラン「ANTCICADA」代表。幼少期から自然を愛し、あらゆる野生を味わう。昆虫食歴23年。2020年6月、日本橋馬喰町に「ANTCICADA」を開業、予約制のコース料理や「コオロギラーメン」などの昆虫料理を提供している。また、商品開発にも注力し、「タガメジン」「コオロギ醤油」「コオロギビール」などは大きな話題を呼んだ。
ANTCICADAの創意工夫
前編:"虫を美味しく食べる"レストランが受け入れられた理由とは?(本記事)
中編:昆虫は「何かの代わり」じゃない。個性を活かす料理づくり
後編:お客様に応じた話し方で、昆虫食を日常のものにする
「友人に勧めたくなる料理」を、昆虫食の入り口に
──オープン当時から、「ANTCICADA」の噂をずっと伺っていました。見た目も美しく、美味しい昆虫食をつくるお店だと。
ありがとうございます。
──どういった営業形態になっているんでしょうか?
現在は、金曜と土曜に行っている地球を味わうコース料理(ペアリング込みで11,000円)営業と、日曜の昼と夜に行っている「コオロギラーメン」(1,100円)営業の2種類ですね。
──コース料理とラーメンでは、価格帯や客層も違いませんか?
そうですね。コオロギラーメンは、お客さんにとっての敷居の低い「昆虫食の入り口」としてメニューを提供しています。
コース料理にいらっしゃるお客様は、元々昆虫を含めた新しい食材に強い関心を持っていた方が多いんですが、ラーメン営業の方には昆虫食に慣れていない方もたくさんいらっしゃいます。だからこそ、ラーメン営業のときにも昆虫を使ったソーセージやデザート、ビールなど、いろいろな昆虫食メニューを楽しめるようにしているんですよ。
──どんなお客様がいらっしゃるんでしょう?
お客さんの層はさまざまですね。家族に連れられてきた2〜3歳の子から、虫好きだという小学生、20代くらいの若者たち、30〜40代の「日々違う食事を求めて食べ歩いている」みたいなグルメな方まで。もちろん、もう少し上の年代の方々もいらっしゃいます。
なかには、「実は虫が苦手だけど、食べたことがないからちょっと興味がある」なんて人もいらっしゃるんです。
──虫が苦手な方も!? その方は料理を食べて、どんな反応をされるんでしょう。
それが、意外と抵抗なく「美味しい!」と食べていただけるんです。昆虫の形を残さず、見た目だけでは昆虫食だとハッキリわからない料理も多いので。
料理をお出しする合間なんかにお客さんとお話をして、どのくらい昆虫が苦手なのか、あるいは興味があるのかを汲み取りながら「ちなみに、こういう虫で出汁をとっているんです」と見せると、「なんだ、意外と見ても大丈夫でした」なんて言われたり。
──苦手克服とまでいかなくても、食べて味を知ったあとは昆虫への抵抗感が薄れるんでしょうか?
そうですね。最初から堂々とテーブルに「この昆虫が食材です」なんて並べたりしていたら、「なんだこの店?」と思われたりするはず。虫を食べることってワイルドで癖の強いイメージがあると思うので、店の世界観はシンプルで、洗練された感じの方が安心して食べられると思うんです。
──やはり、昆虫食を提供するうえで「抵抗感を無くす」ことは意識されていますか?
もちろん一番工夫する部分で、一番頑張らないといけない部分だとも思っています。昆虫食は本当に面白いポテンシャルがあるのに、「虫って気持ち悪い」とか「怖い」というイメージだけで「食べたくない」となってしまうのは、もったいないことだと感じていて。
より多くの人に「食べてみたい」と思ってもらうには、必要な要素が2つあると思うんです。1つは見た目の抵抗感がないこと、もう1つは、シンプルに味が美味しいこと。
特に、「味が美味しい」と語るのは僕たちお店側ではなく、お店に来てくれたお客さんたちであるのも大切だと思います。
──お客さんたちが…それはなぜですか?
店側の僕たちが「昆虫食の美味しさ」を語っても、「それはあなたたちが好きだからでしょう。虫好きな人と、私の舌は違う」と思ってしまう人の方が多いはず。
だからこそ、お客さんが「この料理や体験を友達におすすめしたい」と思うような料理をつくることが大事だと考えています。
いい意味で「滅多にない体験をしちゃった」と感じて、なおかつその料理が美味しければ「このあいだコオロギラーメンを食べに行ったんだけど、美味しかったんだよ」と自然と誰かに言いたくなるはずですから。
ぜひ、食べてみてください。まずは「コオロギラーメン」はいかがでしょう。
──食べたいです!
中編では、篠原さんの制作した「コオロギラーメン」をはじめ、いくつかの料理をいただきます。
>>中編を読む
ANTCICADA
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written by
いぬいはやと
1993年生まれの編集者・ライター。ローカルを軸にした編集チーム『Huuuu』に所属し、外食、1次産業、移住などを中心に取材。趣味で酒場のメニューを収集しています。