老舗うどん屋「歌行燈」の挑戦。“みんなが笑顔になる”新たな取り組みとは?

FOOD-IN編集部が注目の飲食店をピックアップ!今回は、創業140年を超える老舗うどん屋「歌行燈」をご紹介します。コロナをきっかけに、創業当初から続く理念“地域貢献”への回帰を誓った、5代目社長の新たなる挑戦を取材しました。

三重県・桑名の老舗うどん「歌行燈(うたあんどん)」

ありとあらゆる文化が入り混じり活気にあふれる明治時代、伊勢の国と隣接する宿場町として栄えた地・桑名に開業した「歌行燈(うたあんどん)」。大正~昭和時代に活躍した作家・泉鏡花(いずみきょうか)の小説にも登場し三重県ではその名を知らぬ人はいないほど有名な老舗うどん屋です。

歌行燈 桑名本店
歌行燈 桑名本店

「うどんや丼ものの単品が主流だった当時、3代目社長が発案した「釜揚げうどん」「天ぷら」「しぐれ茶漬け」のセットメニューが好評となり、歌行燈は徐々に店舗数を広げていきました」。そう教えて下さったのは、5代目社長の横井健祐さんです。

株式会社歌行燈 代表取締役 横井健祐さん
株式会社歌行燈 代表取締役 横井健祐さん

3代目の名案からこれまで順調に事業を進めてきた「歌行燈」ですが、コロナウイルスの感染拡大により大きな打撃をうけその規模を縮小せざるを得なくなります。

そんな中、横井さんは「このかつてない事態だからこそ原点に返り、お店やお客様はもちろん、支えてもらっている地域や生産者さん達とのつながりを見つめ直す必要があるんじゃないか」と考えました。

歌行燈のサービス行動指針「花鳥風月」。140年の歴史を通じて積み重ねてきたお客様へのもてなしの心が記されています
歌行燈のサービス行動指針「花鳥風月」。140年の歴史を通じて積み重ねてきたお客様へのもてなしの心が記されています

創業当時から変わらない経営理念「企業の発展を通して地域貢献をする」を改めて心に刻み、今できることを一心に探った横井さんは、知名度が低いために流通していない「未利用魚」に着目します。

生産者・卸業者・一般消費者をつなぐ歯車として、こんな時代だからこそお店に関わる人々がみんな笑顔になれるようにと願う5代目社長の挑戦を詳しく伺いました。

「知らないだけでこんなにうまい!」未利用魚の可能性

原点への回帰を誓った横井さんはまず生産現場の見直しを始めます。

「飲食店は生産者の方々、生産者さんと店をつないでくれる卸業者の方々にたくさん支えられています。そういった方々の役に立ち地域貢献をしていくためには現場に行って、今ある現状を直接知った上でできることを考えるのが一番だと思いました」。(横井さん)

体長1.5メートル以上、重さ30キロ以上にも成長する大型の白身魚「オオニベ」
体長1.5メートル以上、重さ30キロ以上にも成長する大型の白身魚「オオニベ」

地元の漁師さん達から様々な海事情を聞いていくなかで、近年伊勢志摩の海で「オオニベ」という大型の白魚が網にかかるようになったが三重では食べる習慣がないために値が付きにくい・流通しにくい、という情報をききつけた横井さんは興味を惹かれ実際に食べてみることに。

すると驚き、「オオニベ」はあっさり軽い口当たりなのに旨味はしっかりと感じられて大変美味しかったのです。

「もしこういった未利用魚をお店で適正な価格で買い取り、美味しく調理してお客様に提供することができたら、漁師や卸業者の方々にもお金が入るし、お客様にも新しい味わいを楽しんでもらえるし、環境にも優しい。まさに自分が目指す地域貢献に繋がるのではと考えました」。(横井さん)

未利用魚「オオニベ」を使ったメニューが誕生

そこで生み出されたのが未利用魚「オオニベ」をつかった天ぷらやフライなど、「歌行燈」自慢のうどんとの相性も抜群なメニューです。

左「オオニベ」のフライ、右「オオニベ」の天丼
左「オオニベ」のフライ、右「オオニベ」の天丼

「オオニベ」のメニューはお客様からも大好評!食べたことない魚を食べるワクワク感・旨味がぎゅっと凝縮された「オオニベ」の味わい深さに多くのお客様が「また食べたい」と評価しました。

思わぬメリットも。「美味しく食べて、環境問題にも貢献」

お客様からは美味しさのほかに、「日頃耳にするSDGsやフードロスといった問題に関心はあっても実際何をすればよいか分からなかった。しかし未利用魚を自分が美味しく食べることで、そういった課題解決に少しでも貢献できるのは嬉しい」といった声も多く聞かれたそう。

「自分も含め、環境問題への参加方法はイマイチぴんとこない方が多いのが現状です。でも日頃行なっている“食べる”という行為でそれが叶うというのは、美味しいうえに環境にいいことができて一石二鳥に感じることなのだと思います。」(横井さん)

「オオニベ」の天ぷら
「オオニベ」の天ぷら

思わぬメリットは、お客様に環境問題への参加を喜んでもらえただけではありません。

老舗企業の思い切った取り組みにはテレビ局や新聞社も注目し、歌行燈の未利用魚利用の取り組みが県の垣根超えて広く知れ渡った結果、問い合わせが殺到。同じような取り組みをしたいと他飲食店から相談を持ち掛けられるほどの反響があったのです。

「広い地球に対してやっていることはほんの些細なことですが、こうして広く知ってもらって、少しでも多くのお客様や飲食店が環境問題に関心をもってくれたら嬉しいと思います」。(横井さん)

未利用魚の“認知度向上”も一つの狙い

未利用魚が未利用魚として市場で流通されない背景には、その魚自体の認知度の低さが大きな要因となっています。

生産地では極力廃棄にならないよう何らかの形で使用するようにしているものの、それだけではその魚自体の認知度は上がらず、根本的な改善にはなかなか繋がりません。

今回の取り組みはそれをふまえ、オオニベの名前をあえてそのまま出すことで認知度を上げて流通を促し、オオニベなら「オオニベ」として食卓に並んでいくような流れを作りたいという狙いもあったそうです。

未利用魚の活用、新作は「サバフグ」

「これからも生産者さんの生の声を聞いて、飲食店としてできる取り組みを続けていきたい」と語る横井さん。先日さっそく新作が発表されました!

今回の魚は、伊勢志摩の海でトラフグを獲る延縄漁にかかる魚「サバフグ」です。

サバフグ
サバフグ

「サバフグ」は、地元では一夜干しなどの加工原料として活用されていますが、歯が鋭く釣り糸や網などの漁具を噛み切ってしまう習性があるため、トラフグを獲る延縄漁等にも影響を及ぼすことが今問題視されています。

今年は水揚げが大幅に増加したといわれている中、歌行燈はこれをより幅広く活用していくべくメニューを考案!定番のから揚げだけでなく、名物料理の天丼にもあしらった新メニューが誕生しました。

「サバフグ」のから揚げ
「サバフグ」のから揚げ

海老と「サバフグ」の天丼御膳
海老と「サバフグ」の天丼御膳

こちらは2022年3月15日(火)より、「歌行燈桑名駅前店」「大山田店」「四日市ときわ店」「名張店」「鈴鹿店」の5店舗で販売中!

数量限定で各店売り切れ次第販売終了となりますので、気になる方はこの機会をお見逃しなく!

「歌行燈」は他にも取り組みいろいろ

コロナというかつてない脅威に立ち向かう「歌行燈」では、地域貢献をめざした未利用魚の利用の他にも様々な取り組みを行なっています。

ハイクオリティなのにお財布にもやさしい!大好評のテイクアウト

まずはステイホームが続くなかで需要の高まりが顕著なテイクアウト。「歌行燈」のテイクアウトメニューには、天丼や季節の食材をふんだんに使った豪華な弁当が30種類以上ラインナップされています。

歌行燈テイクアウト

歌行燈テイクアウト

どれもおいしそう……。これだけ豪華な仕様なのにお値段がリーズナブルなのも嬉しいポイントですね。職場でいただくランチやお家の夕食に、ゆっくり「歌行燈」のお店の味を楽しむのはいかがですか?

ご注文は電話または店頭で受付中です。

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ちょっと贅沢なお食事やギフトにも!オンライン通販も必見

「歌行燈」自慢の味をお家でも堪能できるよう、秘伝の出汁やうどんの通信販売も実施中!なかでもおすすめしたいのが、桑名名物・蛤(はまぐり)をふんだんに詰め込んだ「蛤うどんすき」です。

蛤うどんすき 宴 2人前 5778円(税込)
蛤うどんすき 宴 2人前 5778円(税込)

「歌行燈」秘伝の鍋出汁と具材がセットになった「蛤うどんすき」は、とにかく豪華!ごろっと大きい蛤のほか、有頭エビ・イカ団子・名古屋コーチン入りつくね・生麩と野菜など、なんとその数14~15種類種類にもなります。これは贅沢ですよね…!

「ヒルナンデス!」や「PS三世」など数々のメディアで紹介された本商品は、真夏7月中旬~9月頭を除いて通年購入可能。蛤が特に美味しいのは6~7月あたりなので、夏の時期にも強くおすすめしたい逸品です!

「歌行燈」オンライン通販はこちら

周りを巻き込んで様々なことに挑戦したい

歌行燈 桑名本店
歌行燈 桑名本店

規定の概念にとらわれない挑戦心で、お店に関わる人々を笑顔にする「歌行燈」。

「今後は未利用魚の取り組みの他にも、様々ある生産地の課題を少しでも解決できるような取り組みは今後も続けていきます。生産者さん、業者の方々、お客様、そして我々の取り組みを知った同業者の方々など、たくさんの人を巻き込んでやっていけたらなと思います。コロナが落ち着いたら、新しい事業や新店舗の出店などにも再チャレンジしていきたいです」と力強く語った横井さん。

創業140年の老舗はこれから先10年20年とどんな進化を遂げるのか。楽しみに見守っていきたいと思います。

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