マーケティングと聞くと身構えてしまいますが、商品が売れる仕組みを作ることを指します。本連載ではマーケティングの代表的な法則や考え方をご紹介。すぐに活かせるものから、周りに教えたくなるようなものまで幅広くピックアップします。今回は「パレートの法則」についてご紹介します。
前回の記事はこちら
飲食店でも取り入れたい「パーソナライズ」って?何から始めるべき?
パレートの法則とは
パレートの法則とは、イタリアの経済学者であるヴィルフレド・パレートが提唱した法則です。この法則では「社会で起こっているほとんどの現象は2割の要素で8割決まる」とされています。このことから「20:80の法則」や「ばらつきの法則」とも呼ばれます。
飲食店経営にあてはめてみると?
パレートの法則は、実証できる確かな数値や根拠から提唱された理論ではなく、私たちの身の周りの出来事を幅広く分析した結果の傾向、いわば経験論です。飲食店経営にあてはめると、以下のような例を挙げることができます。
・売上の8割は、2割のお客様によって作られる
・売上の8割は、人気上位2割のメニューによって作られる
・従業員が働いた成果の8割は、2割の優秀な従業員によって生み出されている
実際にこうした経験をした人も多いのではないでしょうか? 当然すべてがこの法則にあてはまるわけではありませんが、こうした事例は非常に多いようです。そのため、マーケティングやコンサルタントで広く活用されています。
さまざまな施策に活用できる
さきほどの例を一見すると、成果(売上)に貢献していない残り8割を切り捨てればよいのでは?と思われますが、そうではありません。後述しますが、2割が生み出す成果を残りの8割が支えているケースもあるためです。
パレートの法則を飲食店経営に活用する上で大切なのは、成果を作っていない8割を切り捨てるのではなく、「上位2割の傾向を把握し、その2割に注力する」こと、そして「そこを伸ばすためのアクションを考える」ことです。
これを前提に、具体的な活用場面をみていきましょう。
「売上の8割は、2割のお客様によって作られる」
飲食店で売上の8割を作るお客様というのは、主に来店回数が多いリピーターを指します。パレートの法則を活用するにはこの上位2割のリピーターの傾向(年齢、性別、時間帯、よく頼むメニューなど)を把握することが大切です。その上で、リピーターの維持と増加を目指すアクションを行ないます。
上位2割のリピーター傾向に沿った商圏を強化して新規顧客のお客様を集客する
リピーターにあたるお客様が、ずっと入れ替わらないわけではありませんし、さらに増やすための動きも欠かせません。
新規顧客の集客をするときこそ、「上位2割のリピーターの傾向」が活きてきます。というのも、新規集客はリピーターを作るコストの5倍はかかると言われているほどお金がかかるもの。できるだけ効率的にすすめたいところです。そこで、上位2割のリピーターの傾向でつかんだ商圏に対してお金を集中させる方法があります。
例えば、上位2割のリピーターにファミリーが多い場合は、ファミリーが多く住む地域、リピーターにビジネスマンが多い場合は周辺のオフィスへのポスティングや新聞折込に販促予算を割きます。
それ以外の地域には、SNSやGoogleマイビジネスなど、お金のかからない方法で宣伝します。こうすることによって必要以上のお金をかけずに、効果的な宣伝が可能となります。
「新規」と「リピーター」
新規のお客様を集めるための流れとリピーター獲得のステップについては、こちらでもくわしくご紹介しています。
お客様の離れを5%改善=利益は25%アップするってほんと?(5:25の法則)
上位2割のリピーター傾向に近いお客様を強化してリピーターになってもらう
リピーターは本人の来店回数による売上貢献のみならず、お店の宣伝を自主的にしてくれたり、友人や家族を連れてきてくれたりと、リピーターを起点にして情報を広げてくれることが多いです。そんなリピーターを増やすためには、パレートの法則にのっとり、上位2割のリピーター傾向に近いお客様に強化して、何度も来てもらえるようなサービスを提供しましょう。
例えば、上位2割のリピーターにファミリーが多いのであれば、ファミリー限定クーポンの発行やファミリーが楽しめるイベントを開催するなどが例として挙げられます。
その他、スタンプカードで来店回数に応じたプレゼントをしたり、常連さんには新しいメニューの試食をお願いするしたりなど、何度も足を運ぶことで味わえる「特別感」を演出することも大切です。
「売上の8割は、人気上位2割のメニューによって作られる」
メニューの種類はたくさんあればその分バリエーションの豊かさ、選ぶ楽しさを提供することができますが、パレートの法則にのっとると売上の8割に貢献しているのはメニューのうちの2割となります。
上位2割のメニューの分析に力を入れて、改善とさらなる差別化をめざす
なんとなくではなく、できればABC分析をもちいるなどして「どのメニューがどのようにお店に貢献しているか」を把握するとよいでしょう。そして、上位2割のメニューの傾向や、それ以外のメニューの貢献度を高める方法の検討、場合によっては廃止やメニュー変更をすすめます。分析と改善を重ねることでお店のコンセプトや専門性も磨かれ、他店との差別化やブレないPRにもつながります。
ABC分析とは
複数の商品の売上を一定期間記録し、何がどのくらい売れたのか、また全体の売上に対して何%を占めているのかを調べ、%に応じて商品をA~Cに分類することで各商品の重要度を測る分析のことです。
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「従業員が働いた成果の8割は、2割の優秀な従業員によって生み出されている」
店舗の従業員をパレートの法則にあてはめると、従業員全体が働いた成果の8割は優秀な2割の従業員によって生み出されているということになります。
では、優秀な2割の従業員だけでいいの?と思うかも知れませんがそうではありません。
組織の人材に対してパレートの法則を適用するには考慮すべきことがひとつあります。それは「優秀な2割が結果を出すためには、残り8割のサポートが必要不可欠」ということです。つまり、一見2割の優秀な従業員による成果も、実は残り8割のサポートがあってこそ成り立つものということになります。
優秀な2割とその下支えとなる8割がいることを理解し、適材適所に仕事を割り振る
パレートの法則を活かす店舗運営のためには、組織上優秀な2割と下支えとなる8割がいるということをよく理解し、優秀な2割にはより売上や効率的な店舗運営に直結する仕事を割り振るなど、適材適所な仕事の振り方をするようにしましょう。
さらに、お互いの得意分野をフォローし合うようにチームを作るのも有効です。人には得意不得意があります。そのため、優秀な2割の不得意分野をその他8割の得意分野でフォローできるような体制にするのも良いでしょう。
「8割は下支え」と理解することで、モチベーションを保った組織運営が可能に
もしパレートの法則を単純に受け止め、優秀な2割のみ優遇するような組織体制や態度をとってしまったらどうなるでしょうか。残り8割のモチベーションはどんどん下がり、優秀な2割のパフォーマンスにも影響を及ぼし、結果的に組織全体が悪い状態になってしまいます。残り8割は下支えで組織になくてはならない存在だとあらかじめ認識しておくことで、正当な態度や評価が可能となり、適格な組織運営を行なうことができます。
極端に受け止めすぎない
さまざまなものに活用できるパレートの法則ですが、極端に受け止めすぎないよう注意しましょう。上位2割のみではなく、残りの8割にも大切な役目があるためです。
組織で例えれば、残りの8割には緊張感や競争心などを組織に持たせる役割があります。「成績を維持したい」「この人に抜かれたくない」という心理が働くことで、仕事のモチベーションにつながっていることもあります。同様にABC分析で導き出された下位のメニューも、すぐに廃止するのは早計です。じつは上位リピーターがよく頼んでいるメニューかもしれません。
大切なのはバランス。さまざまな要素が影響しあうことを認識した上で、考え方や分析の方向性にまよったときにはこのようなマーケティングの理論を思い出しつつ、店舗経営へ活かしていきましょう。
まとめ
パレートの法則は、飲食店経営の中でもさまざまな施策に活用できます。極端にならないように注意しながら、さまざまな事柄をあてはめてみては。次につながる新しい発見があるかもしれません。
written by
FOOD-IN編集部
FOOD-IN編集部ライターが未来の飲食店をつくるための経営ノウハウをどのメディアより”分かりやすく”をモットーにお届けします。