飲食店が自分たちの店づくりを続けていくために、必ず考えることになる「お金」の問題。融資や補助金の話から、日々発生する「お店から出ていくお金」に到るまで、さまざまな飲食店の「お金に対する考え方」を聞いていく当連載。
第一回では、ホテルとの業務提携を通して「賃料ゼロでバーを営業する」ことに成功したお店に取材。3回に渡って、「賃料ゼロ」に至った経緯と考えを伝えていきます。
offin’のお金との向き合い方
Point 1:別の業態の課題を解決し、賃料をゼロにする
Point 2:「続くこと」をゴールに、座組みを決める(本記事)
Point 3:飲食店の得意技は、「最高の入り口」であること
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現状維持がマイナスにならない体制で、大切なのは「続くこと」
──現在は、ホテルとバーの営業はそれぞれどういった状態ですか?
井上
ホテルについては、実はまだ稼働していないんですよ。
コロナの影響もあって、バーのほうは社会情勢を見つつ営業時間を変えながら店を開けています。
──そうなんですね!じゃあ、代行するはずの「フロント業務」も発生していないと。
井上
現状では、そうですね。ホテルが始まるまでは、代わりになるような業務、例えば館内の清掃や管理をすることで賃料をゼロにしてもらう形にしています。
──ホテルの運営目線では、ホテルに収益がない状態で賃料ゼロにしていても問題ないのでしょうか。
井上
考え方としては、現状は大きく投資をしてホテルを建てた段階です。清掃やその他のサービスは最初から外注するつもりで考えていたので、従業員もいません。
人件費がかかっていないので、現状維持でもマイナスにはならないんですよ。
──現状を維持しつつ、いざホテル運営を始めるとなってもフロント業務を請け負ってくれる人がすでに見つかっていると。
井上
そう。今のこの場にとって大切なのは「続くこと」だと思っていて。ホテルが営業できない間は、ホテルのことは忘れられていくじゃないですか。
でも、「offin’」さえ営業を続けていれば、人に知られる機会がある。バーの営業が、ホテルの広報活動に結果的に繋がっているんです。
井上
ホテルの将来の利益の為にも、大切なのはお店が「続くこと」だと思いました。だからこそ、店に立つ人にとって「自分の店だ」と思えることが大切で。
──「自分の店」と思えること、ですか。
井上
それは、運営していた「Chat Base」での学びでもあります。
そこでもホテルのフロント業務を代行したんですが、フロントって、区の条例によっては24時間スタッフが常駐していないといけないところもあるんですよ。
スタッフに家賃無料で住んでもらうなどして解決していましたが、それが、場の運営メンバーを疲弊させる原因になってしまって。
──そういった課題は、「offin’」ではどう解決するのでしょうか?
井上
墨田区の条例では、『事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応のための体制が整備されていること』が条件でした。
ホテルスタッフが徒歩で迅速に現場に到着できれば、条件を満たしていたんです。「自分の店を持ちたい」と考えていて、暮らしている場所も近くて、この仕組みを面白がってくれる。そんな人が誰かと思った時に、ヤスさんと出会ったんです。
話してみると、僕たちのやろうと考えていたことと、ヤスさんがやりたかったことがマッチしました。彼自身、ゲストハウスで働いていた経験者でもあり、条件もぴったりだった。
──すごい偶然が重なって、「offin’」が生まれているんですね。ヤスさんがゲストハウス経験者だったことも、この仕組みが実現した大きな要因ですよね。
ヤス
そうかもしれません。宿のフロントって本当に大変な仕事で、ゲストハウス時代も苦労はありました。
お客さんの対応ってとても時間と体力を使うのに対して、雇われている身だと自分で決められないことも多いんです。
──たとえば、どんなことが大変でしたか?
ヤス
その場のルールとかも、勝手に細かく決める訳に行かなくて。前職は、外国の方を多く受け入れるゲストハウスで働いていたので、文化の違いに驚くことも多かった。
たとえば、ブラジルの人は臭いどめのための粉を足にまぶしたりするんですけど、その足跡がロビーにポツポツと残ったり……
──なるほど、トラブルには対処しないといけないし、責任は大きいのに裁量が少ない……といった状態だったんですね。
ヤス
でも、「offin’」での仕事にはまた違った気持ちで取り組めると思います。俺が自分の店を続ける為に、フロント業務をやる訳なので。
井上
このヤスさんが「自分の店」だと思えることが、重要だと思うんですよ。
大変なサービス業を続けていく為には、どうしても本人のモチベーションが不可欠になる。
お店が「続くこと」を考える以上、ヤスさんがいなかったらここにバーは存在しなかったと思います。
後編に続きます(最終回)
飲食店の得意技は、「最高の入り口」であること by offin’ 後編
written by
いぬいはやと
1993年生まれの編集者・ライター。ローカルを軸にした編集チーム『Huuuu』に所属し、外食、1次産業、移住などを中心に取材。趣味で酒場のメニューを収集しています。