飲食店が店づくりを続けていくために、必ず考えることになる「お金」の問題。融資や補助金の話から、日々発生する「お店から出ていくお金」に到るまで、さまざまな飲食店の「お金に対する考え方」を聞いていく当連載。
第一回では、ホテルとの業務提携を通して「賃料ゼロでバーを営業する」ことに成功したバー「offin’」に取材。3回に渡って、「賃料ゼロ」に至った経緯と考えを伝えていきます。
offin'の作り方
Point 1:場所代ゼロ!? で運営されるバー。ホテル提携で生まれる新しい飲食店の始め方
Point 2:「続くこと」をゴールに、座組みを決める
Point 3:飲食店の得意技は、「最高の入り口」であること(本記事)
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「リビングみたいな場所を作りたかった」バーの生い立ち
──ヤスさんは、実際に賃料ゼロのお店を運営してみて、どうですか?
ヤス
本当にありがたいですよ。営業しづらい今の状況でも、仕入れの代金と、自分の生活費と、公庫からの借り入れの返済の分が稼げればやっていけるわけですから。
──とはいえ、飲食店を経営していると、月々にそれだけの支払いがあるんですよね…。
──ちなみに、月々の賃料が浮いている分のお金の使い道を聞いてもいいですか?
ヤス
賃料がかからない分、お酒もおつまみもかなり価格を抑えて提供できていると思いますね。
お酒は色んなウイスキーのハイボールを600円から、おつまみも500円代で自家製の燻製ナッツとか、生チョコとか色々ある。
それから、締めでショットグラスに入れたスープを無料で提供したりもしていて。この季節だと、お店から出るときにホッとする温かいものが飲めたら、それだけで幸せじゃないですか。
ヤス
浮いた分は、出来るだけお客さんに還元できるようにしたいなとは考えていますね。
──お店がそう考えてくれているとわかれば、自然とお客さんも通いたくなってしまいますね。
──そういえば、ヤスさんはどうしてバーを開きたいと考えていたんですか?
ヤス
元々はホステルを作りたかったんですよ。オーストラリアで数年働いていたこともあって、外国の人たちと接したり、受け入れるような場所を作りたくて。
そのために、日本に帰ってきてからもずっとホステルで働いていて。
──それで、ホステルで働いた経験があったんですね。そういった思いがありながら、なぜバーへ転向したんでしょう。
ヤス
ひとつは、自分一人でホステルを作ることのハードルが高すぎたからですね。
土地を買って、建物を建てて、スタッフを集めて…と資金面やネットワークなどあらゆる課題があると思い悩む中で、ふと「なんでホステルをやりたいのか」という原点に立ち返ってみたんです。
考えた結果、「外国の人たちを受け入れる」ということができれば、バーという選択肢もあるんじゃないかと思うようになって。
──やりたいことを、別のフィールドで表現しようとされたんですね。
ヤス
はい。オーストラリアの友人宅で見た、リビングルームのような場所を作りたかったんです。
そこでは本を読む人もいればお酒を飲んでいる人もいる。でも、みんな好きに時間を過ごしていていいんだ、と思える寛容な雰囲気があって。
このバーも、そんなリビングのような場所にできればと思ってます。
──ホテルの入り口として人を迎え入れるには、ぴったりの空間ですね。お話を聞けば聞くほど、この場所で店を開く適任者は、ヤスさんしかいなかったんだなと思えました。
井上
僕らとしては反対に、バーがホテルの一部なんじゃなく、バーにホテルがついてる、と思ってます。
なんども言うようですが、バーがいい店であろうとすればするほど、ホテルにとっては良い入り口になるわけなので。
ヤス
僕の中でも、昔思い描いていたような「外国の人たちを受け入れて、各々の過ごし方を優しく受け止める」ような場所にしたいなと思ってこのバーを作りました。
そういう意味でも、ホテルの1階でやる意味は大きいと思っています。
──ホテルが始められる世の中になったら、この場所は今以上により良いお店になるんじゃないかと思えます。ただ、今は外国の方を受け入れることも難しいですよね。最近はどんなお客さんがいらっしゃるんですか?
ヤス
もともと両国に住んで飲み歩いてたので。
自分が飲みにいく先々の飲食店で「こんな店をやるんですよ」と話していたら、「お前のやる店なら飲みに行ってやるよ」なんて近所の方々が来てくださって。助かっています。
──この仕組みが実現可能だと思えるのは、そういう人に愛されるヤスさんの性格もあってのことですね。まさに、「いい場にする」ことを得意とするバーだからこそ、実現したんだと思います。今日はお話を聞かせていただいて、ありがとうございました。
まとめ
『offin’』が実現した、「ホテルのフロント業務を代行することで、賃料をゼロにしてもらう」という仕組み。
ホテル側にとっては「大切な入り口を任せられる人材」の発見、バー側にとっては、願っても無い好条件で店づくりができる場所の獲得になったこの仕組みです。実現できたのは、各地からやってくる国籍も、年齢も、目的も異なる幅広いお客様を受け入れることに長けた「バー」と「ホテル」の好相性があったから。
賃料がゼロになったことで、バーはお客様へのサービスを向上させやすくなり、それによって上がった評判は、バーがフロントを担うホテルの評価をも上げていく。ただ「一階に店がある」こと以上の相乗効果を、これから生み出していくはずです。
ホテルバーoffin'
〒130-0021 東京都墨田区緑1丁目24−12 1F
17:00-24:00
080-8882-7184
※営業時間が変更となる場合があります。最新の営業時間についてはお店Facebookをご確認ください
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今回は3記事にわたり賃料ゼロバー『offin'』をご紹介しました。
本連載では、これからの飲食店に必要なノウハウや考え方をお店のみなさまへインタビューし、お店ならではの”個性”が生まれた理由、大切にしている考え方を伺いながら、愛される飲食店の作り方をひもといていきます。
お店によって全く異なるさまざまな工夫に目が離せません。
written by
いぬいはやと
1993年生まれの編集者・ライター。ローカルを軸にした編集チーム『Huuuu』に所属し、外食、1次産業、移住などを中心に取材。趣味で酒場のメニューを収集しています。